大気×亜美 | ナノ




何時何分

「えぇぇぇぇっ!?海外ぃぃぃぃぃっ!?」
驚きを露わにし、大きな声を出した目の前の友達に亜美は慌てたように「しーーーっ」と人差し指を立てた。
「ご、ごめん。てっきり…そう、だったんだ」
「えぇ」
「それで?」
「え?」
「プレゼントとかはどうするの?」
「あぁ、そうね。行く前に渡そうかと思っているの」
亜美が応えると目の前でクリームソーダのアイスをつついていた愛野美奈子は「チッチッチッ」とスプーンを振った。
「美奈子ちゃんお行儀が悪いわ」
「ダメよ」
「え?ダメ?」
亜美は困ったように考える素振りを見せた。
「プレゼントを先に渡しちゃうなんてダメよっ!」
「……それじゃあ、帰ってきて「それもダメ」えぇっ!」
「あのねーぇ、亜美ちゃん。いーい?」
「え?えぇ…」
「一緒に暮らし始めて、はじめての大気さんの誕生日でしょ?」
「うん」
と、うなずいて、恥ずかしそうに頬を染める亜美。
「くっ…、それなのになぜ大気さんてば海外へ…っ!」
「お仕事だもの」
「そーだけどーっ」
当事者であるはずの自分よりも納得がいかないとばかりにくちびるを尖らせて、拗ねたように言う美奈子に、亜美はくすりと笑った。

「まぁ、高校卒業と同時にスリーライツとしてだけじゃなく、ソロ活動も発表して一気に忙しくなったとは言え……なーんでよりにもよって誕生日をど真ん中に挟んだ一ヶ月間、大気さんだけひとり海外なわけ?」
「映画の撮影だって」
「んー…せめて日本国内であれば…っ」
「あれば……なに?」
「……いえ、別に」
美奈子は亜美の瞳からスッと視線を逸らせた。
(夜天くんに頼み込んで亜美ちゃんを大気さんのところへお届けできたのに、なんて口が裂けても言えないわ…っ)
心の内でそう呟いた美奈子は、とりあえずコホンと咳払いをした。

「プレゼントはもう決めたの?」
「えぇ、もう用意してあるわ」
「なにを?」
「それは……ひ、ひみつ」
先ほどと打って変わって今度は亜美のほうが美奈子の視線から逃げた。
「ふーん…それを出発前に渡すのね」
「えぇ、そのつもよ」
「…………ふむ…」
美奈子は今期のドラマで夜天が主演を務めている探偵役の真似をして思案ポーズを取った。

「…………ねぇ、亜美ちゃん」
「なぁに?」
たっぷり一分は何かを考えていたらしい美奈子は、突拍子もないことを言い出した。
「どうせならプレゼントは当日に渡せば?」
「…………はい?……えぇっ…と…、あたしは学校があるし、海外なんて、行けないわよ?」
「今回はそこまでは言わないわよ?ただ、会いに行かなくても、亜美ちゃんの頭脳を持ってすれば、そんなに難しいことじゃないはずなのよ」
「どういうこと?」
「作るのよ!」
美奈子はアイスをすくったばかりのスプーンをズビシと亜美に向けて差し出した。
亜美はさっきと同じように注意はせずに、スプーンにのったアイスをぱくりとくわえた。
「あぁっ!最後の一口をっ!」
「ごちそうさまでした」
「亜美ちゃぁぁぁぁん」
「それで?作るってどういうこと?」
亜美は泣きつく美奈子に黙って自分が手を付けていなかったチーズケーキの皿を差し出した。
「亜美ちゃん。優しい」
「フォークではやらないでね」
「わかった。ごめん。半分返す?」
「全部食べてくれていいわよ」
「いただきます。それでね、作るって話なんだけど」
「えぇ」
声のトーンを落として深刻な表情を見せた美奈子に、亜美も思わず声を潜めた。
「――時限爆弾「爆発するようなものじゃないんだけど…」
「ちっがうの!そうじゃなくて!例えばの話なの。時限爆弾みたいに決まった時間になったら箱が開くようにとか、できたりしない?」
美奈子の言葉を聞いた亜美は目を丸くした。
「そんな事……出来るのかしら……」

(そこで即答で「無理よ」って言わないのが、さすが亜美ちゃんなのよねぇ)
考えこむ亜美に美奈子は内心でそう呟いた。
「……むかーしむかしあるところに、マーキュリーというとっても頭のいい女の子がいました」
「え?」
「マーキュリーは、色々な薬を作ったり、色々な仕掛けを作ることが得意な女の子でした」
「……」
「ある日、マーキュリーは大好きなセレニティという女の子の誕生日にプレゼントを用意しました」
「……」
「けれどもマーキュリーはおうちの用事でセレニティの誕生日には会えないことがわかりました」
「……」
「そこでマーキュリーは言いました」
「……」
「『プレゼントだけでも当日に渡したい』と。さて、マーキュリーはどうやってプレゼントをセレニティに渡したでしょうか?」
美奈子はピッと人差し指を立てた。
「1番、宅急便で当日届くように送った」
中指を立てて続けた。
「2番、他の友だちに渡しておいてくれるように頼んだ」
続いて薬指を立てた。
「3番、誕生日の日にならないと開かない魔法の箱を作ってセレニティに渡しておいた」
「……」
黙って自分を見つめる亜美に、美奈子はニッと微笑んだ。
「……よくそんな昔のお話、覚えてるわね」
「後にも先にも、セレニティの誕生日にそんなことをしたのはマーキュリーだけだったのです。めでたしめでたし」
そう言ってチーズケーキを頬張った。

「…………ねぇ、美奈子ちゃん」
「うん?」
「そんな事したら」
「ん?」
「大気さんに、迷惑だって思われないかしら?」
「……ていっ」
伏し目がちに不安気な言葉をつぶやいた亜美に、美奈子は指弾をひとつお見舞いした。
「あのね、あの時のセレニティは本当に嬉しそうだったのよ?すごく喜んでたの!」
美奈子が言うと、亜美が驚いたような視線を送った。
「だからね。きっと大気さんも喜ぶわ」
「そう、かしら…」
「そうよっ!なんてったって大気さんたら亜美ちゃんにベタ惚れなんだからっ、ね!」
「なっ、そんなことっ」
「大ありなのっ!」
美奈子は言い切ると、亜美の口にチーズケーキを押し込んだ。
「んむ!」
「おいしいでしょ?」
亜美はもぐもぐとチーズケーキを咀嚼して嚥下すると、紅茶を飲んでふぅと息をついた。
「元はといえばあたしが頼んだのに」
「まぁまぁ、堅いこと言わないで」
にこにこと笑顔を見せる美奈子に亜美は小さく微笑んだ。


(魔法の箱……かぁ)
亜美はお風呂に入りながら、美奈子の言葉を思い出していた。
記憶としては、ある。
材料も、そんなにかからずに揃えられる。
問題は、プレゼントを渡す本人である大気にバレないように、どうやって作るのか、という点に限る。
「んー……」
ちゃぷんと揺れるお湯を見つめる。

――コンコン

「亜美?」
「はいっ!?」
「あ、いえ、驚かせてすみません。一時間経っても出てこないので、何かあったんじゃないかと」
そう言われた亜美は浴室内に備えられている時計を見て驚いた。
「あ、すみません!」
「のぼせないように気をつけてくださいね」
「ありがとう、ございます」
大気は安心したように脱衣所から出て行ったようだった。
「当日……に、か」
亜美はそう呟くと意を決したように頷いた。


荷造りをしている大気の部屋の扉を亜美はノックした。
「はい」
「お邪魔してもいいですか?」
そっと顔を覗かせてそう言うと大気がくすくすと笑った。
「同じ家に住んでるんですからそんなに気を遣わなくてもいいですよ」
「それは、そうなんですけど…。荷物はまとまりましたか?」
「そうですね。大体は。まぁ、そんなにたくさん持って行かなくても現地調達も可能ですから」
「……」
「亜美?どうかしましたか?」
「いえっ、なんでも、ないんです」
そうは言うものの顔をあげようとはしない亜美を大気はそっと抱き寄せた。
「すみません」
「え?」
「私から『高校を卒業したら一緒に暮らしましょう』と言っておきながら、一ヶ月も家を空けてしまうなんて……」
「そんなことっ」
亜美はふるふると頭を振った。
「お仕事なんですから、そんな風に思わないでください」
「……ですが」
「大気さんが、お仕事で家を空ける時があることも分かっていて『はい』って応えたのは、あたしです」
亜美はまっすぐに大気を見つめてそう告げた。
「だから、そんな事、考えないでください」
「わかりました」
大気は頷くと、きつく亜美を抱きしめた。
「大気さん」
「はい」
「あの、ね…」
「ん?」
「これ、持って行ってくれますか?」
そう言って亜美が取り出したのは両手に乗るくらいの大きさの箱だった。
「これは」
「お誕生日プレゼントです」
「ありがとうございます。開けても「ダメです」えっ…」
亜美の即答に大気が驚いたように目を瞠った。
「ダメ、っていうか…今開けようとしても絶対に開けられないので、それごと持って行ってください」
「……どういう、ことですか?」
大気はもらった箱をくるくると回して見つめる。
「大丈夫です。ちゃんと大気さんのお誕生日がきたら開くようになっていますから」
「そうなんですか?でも、こんなものどうやって」
「作りました」
「つくっ…たんですか?」
「はい」
「そうなんですか」
大気は驚きながらも、亜美が――というよりはマーキュリーとしての好奇心が――時々こういったものを作ったりしていることは知っていたので、納得はした。

「では、誕生日当日まで楽しみにしておきますね」
「あ…、はい」
嬉しそうに笑う大気に、亜美は恥ずかしそうに頷いた。
大気はそんな亜美の碧い髪を優しくなでると、プレゼントが入った箱を荷物の中に大切そうに仕舞いこむと、再び彼女に向き直った。


そして。

――カチャリ

ふと聞こえてきた音に大気は少しだけ驚いて、時計を見て、小さくくすりと笑う。
「さすが、ですね」
そう呟くと音の発生源である箱を開ける。

そこには一枚のカードと、丁寧にラッピングされた箱が入っている。
一番上に置かれていたカードを見ると――『大気さんへ』――見慣れた綺麗な文字が並んでいる。
どちらから見ようか迷って、まずはプレゼントを開けることにした。
ブルーのリボンを解いて、ラッピングのテープを丁寧に外す。
箱を開けた大気はふっと微笑んだ。

そこにはシンプルなブレスレットが入っていた。

大気はそれをつけて、入っていたカードをめくる。
そこには、誕生日を祝うメッセージと
「っ!」

お仕事頑張ってください

早く、大気さんに会いたいです


恥ずかしがり屋の亜美が、口にはなかなか出来ないであろう言葉。
それを文字として表記されるだけでこんなにも浮かれて、照れてしまう自分に大気は笑ってしまう。

「まったく、嬉しい事をしてくれますね。亜美」
大気は今すぐにでも会いたい少女の姿を思い浮かべてから、スマートフォンを取り出すと、ブレスレットの写真を撮って、彼女へと送信した。



プレゼントありがとうございます
私も、早く亜美に会いたいです












お誕生日おめでとうございますっ!大気さん!
毎年プレゼントに悩みますね…

なんか何年間かやってると何をプレゼントしたのかがわからなくなってきてしまっているので…
そろそろネタが被ってしまうかもしれませんね…

ちなみに亜美ちゃんが送ったブレスレットは、とあるアクセサリーサイトを見ていて、シンプルだけどごちゃごちゃしていないシンプルなペアブレスレットにしました。
ステンレス加工で、メンズは少しブラックに、女性用はピンクっぽいコーティングがされているものでした。
ペアなので大気さんの誕生日になった時に、亜美ちゃんはひとりこっそりひっそり自分も付けています。
なので、大気さんからの写メに対して勇気を出して、その写メを送り返して、大気さんを悶絶させるという…ね?

あと、大気さんと亜美ちゃんはLINEよりもメール派じゃないかと勝手に思っています。
LINEもするんだろうけれど、なんとなくメール優先なイメージがあります。

それでは、少しでもお楽しみいただけます嬉しく思います。



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