大気×亜美 | ナノ




Rainy night

『――』

ふと聞こえた音に鼓動が跳ねて、亜美はふっと視線を送る。
そこには自分の恋人の笑顔が映っていた。
「……っ」
深呼吸をゆっくりひとつ、ぎゅっと目を瞑ってそれから視線を逸らせて、空を見上げればさっきまで見えていた月はすっかり雲に覆われてしまっていた。
亜美はカーテンを閉めると、先ほど視線を逸らせたテレビをもう一度見つめる。
液晶の向こうで考え込む仕種を見せている彼は今現在遠い海の向こうで、あと一ヶ月近くは戻ってこない。

(大気さん、お仕事は順調かしら)

仕事内容によっては家族にも明かせないこともあって、今回の大気の仕事はそれだった。
大気がソロの仕事で三ヶ月の間、日本を離れることになった。これまで数日や二週間ほどという期間はあったけれど、ここまで長い期間はなかった。

一緒に暮らし始めてからの方が寂しさを感じることが増えた、と亜美は思う。
離れて暮らしていた頃は大気が仕事などの都合で都内にいても会えない日も珍しくなかった。それが二人にとっては当たり前だった。
けれど高校を卒業して二人で暮らし始めてからというもの、CD制作がどれだけ忙しくてスタジオに泊まり込むことになっても、着替えなどを取ってくると理由をつけて、亜美がいるタイミングに一時間程度ではあるが家に帰ってきて、いつだって優しい笑顔で「ただいま」を言ってくれた。
ライブの遠征やドラマ撮影で地方に行っている時はわずかな時間でも電話をくれて「おやすみなさい」と優しい声を聞かせてくれた。
しかし、今回は時差や仕事の都合もあって、メールでの簡単なやりとりしか、できていないのだ。

(大気さんの声が聴きたい)
テレビから流れる声ではなく、電話越しでいいから自分の名前を呼んで欲しい
(寂しい、なんて…思っちゃ、だめ)
きゅっとくちびるを結ぶ。
仕事が終わればちゃんと帰って来てくれるのだから、と言い聞かせてポスッとソファに倒れこむ。
いっそ、このままソファで寝てしまおうかと思う。ひとりきりのダブルベッドは亜美の小さな身体には大きすぎる。
「たいき、さん」
掠れた声で小さく名前を呼ぶ。無意識に…
応えなんてあるはずもないのに。
目を閉じてこのまま眠りに落ちようかと思った亜美だったが、体を起こすとふるふると頭を振りゆっくりと息を吐くと、リビングの照明とテレビを消して寝室へと入る。
しんと静まり返った部屋は耳鳴りがしそうなほど静かだ。

ベッドのサイドテーブルにひとつ置かれた写真立てには、高校の卒業式の日に大気と二人で撮った写真がおさめられている。
星野とうさぎが高校生最後の思い出にと二人で撮って欲しいと夜天に言うと、面倒くさそうにしながらも仲良くピースした二人を撮影したのはカメラ好きな夜天だった。
「あたしも夜天くんと二人で撮って欲しい」
と美奈子が言い出し、いつものように夜天の腕に抱きつくようにした二人を撮ったのは大気だった。
その後、まことを交えて女子四人で写真を撮ってもらった直後、夜天が「せっかくだから大気と水野も撮ってあげるよ」と言い出した。
その言葉に笑顔を見せた大気は
「制服姿で撮るのは最後なんですからいいでしょう?」
と、真っ赤になる亜美の肩を抱き寄せてくすくすと笑った。

当時を思い出して、懐かしく思いながら亜美はベッドに身体を預ける。

(会いたい…な)

こんな気持ちになってしまうのは我侭かしら、と、少しだけ自己嫌悪に陥ってしまうのは悪い癖だと分かってはいるけれど…なんて思いながら亜美はふぅと息を吐くと目を瞑る。

(雨でも降らないかしら)

心に芽生えた寂しさも
月を覆っていた厚い雲も
洗い流してしまえばいいのに、と思った。

――ポツッポツッ

窓を静かに叩く音に亜美は小さく微笑むとゆっくりと微睡みへと意識を手放した。

(おやすみなさい、大気さん)






お読みいただきありがとうございます
お誕生日小説以外、久々の更新です
ふと、長期間会えなくて寂しくなっちゃう亜美ちゃんを書きたくなりました
どうやら管理人はときどき亜美ちゃんをひとりぼっちにしたくなるクセがあるようです
砂糖吐くほど甘いお話も書きたいです
それでは、また



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