『あっと、星野…です。実は昼過ぎに大気が熱出してダウンしたんだ。
夜天は海外だから帰ってこねーし、俺もドラマの撮影でちょっと東京離れるから明日の夕方じゃねーと家に戻れねーんだ。
水野忙しいところわりぃんだけど来てやってくれないか?頼むな』
レッスン終了後、柊先生に挨拶を済ませ部屋を出てから携帯を見ると、珍しく星野君からの着信があって、留守録を聞いたあたしはすぐに大気さんのマンションへ向かった。
貰った鍵で、部屋を開け中に入らせてもらう。
「お邪魔します」
家の中は暗くて、玄関には大気さんの靴だけがあった。
リビングを抜けて、大気さんの部屋をノックしてそっとドアを開いて中を覗く。
ベッドのところが盛り上がっているのが見えて、大気さんの寝息が聞こえる。
なるべく音を立てないようにドアを閉めると、気配を殺してベッドに近づく。
当たり前だけどそこには大気さんがいて、瞳を閉じて眠っている。
ベッドサイドには洗面器があって、触るとぬるくなっていた。
額にはタオルが乗ってて、それもぬるかった。
あたしは洗面器とタオルを手にして一度、大気さんの部屋から出ると水を捨てて新しい氷水を作って部屋に戻る。
大気さんの額に触れると少し熱い。
「ーっ、あ…」
小さく声を漏らしたので、起こしてしまったのかと思ったけど、どうやら違うかったようで、ホッとする。
「失礼します」
タオルをしぼり、大気さんの額に乗せる。
「うぅ…」
冷たかったのか、大気さんが身じろぎする。
その仕種が子どもっぽくて可愛くて、あたしは小さく笑う。
起こすわけにはいかないから、電気を点けるわけにもいかない以上本も読めないし…
だからと言って部屋を出る気にもなれなくて、あたしはどうしようか考える。
どうしようかしら?なんて思いながら大気さんの寝顔をじっと見つめる。
男の人とは思えない綺麗な顔立ち。
すっと通った鼻梁に、長い睫毛、くちびる。
寝てるだけでこんなに絵になるなんて……
改めて、こんな人があたしの彼なんだって考えると……いいのかなって思ってしまう。
『亜美――可愛い』
大気さんはよくそう言って、あたしをからかう。
うまくかわせればいいんだけど、あいにくとそんな事には慣れていないので、恥ずかしくて真っ赤になってしまって…
そしたら大気さんはすごく楽しそうに笑って…
それがすごく余裕に見えて、と言うより実際余裕なんだろうけど…
「悔しいなぁ…」
「――なにが、ですか?」
思わずポツリと呟いた言葉に返事があった事に驚いて大気さんを見る。
大気さんと視線がしっかりと合う。
「た、大気さん///」
「何が“悔しい”んですか?」
「いえ、別に…っ、そんな事より体調の方はどうですか?」
「あぁ…って…そう言えばどうして亜美がここにいるんですか?」
「星野君から連絡があったんです。夜天君も自分もいないから来てくれって」
「っ」
大気さんが少しムッとしたように見えて、あたしは不安になる。
「あ…の…」
もしかすると、あたしが来たことが迷惑だったのかもしれない…でも……。
「心配かけたくないから亜美には言うなと伝えておいたんですがね…」
少し拗ねたように言う大気さんがいつもより少し子どもっぽく見えて、あたしはくすくすと笑う。
「それより亜美、こんな時間に一人で来たんですか?」
「え?」
時計を見ると、時間は夜の十時半を回ったところ。
「はい。レッスンが終わってそのまま来たんです」
「……危ないでしょう?」
大気さんは心配し過ぎだと思う。
「大丈夫です」
反射的にそう返してから、あぁ、しまったと思った。
あたしの方を見つめる大気さんの視線が――怖い。
「大丈夫?」
「…ーっ」
マズイ…これは…本気で叱られる…
本能的に逃げようとしたけど、それより早く大気さんに強く腕を引かれる。
「きゃっ!」
思わず悲鳴を上げると、背中に柔らかいベッドの感触。
「熱が出て本気を出せない私から逃げることすら出来なくて、どこが大丈夫なんですか?」
真っ直ぐに大気さんのアメジストの瞳があたしをその場に縫い付ける。
「“オシオキ”です…亜美」
「なっ…んんっ」
言いかけた言葉を大気さんにくちびるで塞がれる。
すぐに大気さんの舌が入ってきて、あたしはその熱さに驚く。
「ふっ…んぅ」
大気さんを押しのけようとするけど、元々の力の差と押し倒された状態だという体勢的不利で、全然かなわなくて…
あたしの意識が大気さんの熱に侵されていくみたいに――くらくらする。
「はっ…ぁっ///」
亜美を開放すると、瞳は潤み息は上がっていた。
これで『大丈夫』なんてよく言えたものだと思う。
仕事の疲れが溜まって、熱が出ただけで、そんなに大したことはなかった。
だから連絡するほどじゃなかった…
心配をかけたくなかったし、夜に一人で出歩くなんて危ないに決まっている。
それに、体調が弱っている時は同じように理性も弱くなる。
まぁ、亜美の可愛さに私の理性はいつでも瓦解寸前だが…さらにマズイ事になる。
きっと手加減できなくなるから、来ない方が良かったのに…
“オシオキ”とか、言いながら、結局は亜美を抱きたいだけだ。
「っ/// 大気さん/// ダメッ///」
「何が“ダメ”?」
「大気さん熱があるじゃないですか…体調が悪いのにっ、こんな事…ダメ...です///」
好きな子に潤んだ瞳と、濡れた声でそんな事を言われて、興奮するなと言う方が到底無理な話だ。
「だったら――亜美が受け止めてください」
「えっ?」
私の言葉に亜美の瞳が驚きで丸くなる。
――ギシッ
ベッドの軋む音が大きく部屋に響く。
「亜美が私の熱を受け止めてください」
「っ///」
亜美の耳元で囁いた私の言葉の意味を理解した彼女が真っ赤になる。
「む、無理です///」
「どうして?」
「っ/// あたし、そんなつもりで来たわけじゃ…っ」
「この熱をどうにかできるのは亜美だけなんですよ?」
「なっ///」
我ながら卑怯だと思った。
亜美の優しさに漬け込んだズルい言い方。
「亜美」
「んっ///」
そのまま彼女のくちびるをふさぐ。
「ーっ...んぅ」
吐息すら奪い尽くすほどに深くくちづける。
「はっ…ぁ///」
ゆっくりとくちびるを離すと亜美がぎゅっと抱きついてくる。
「お仕事の疲れが溜まってるって言ってたのに///」
「ぐっすり寝たので、元気ですよ?」
「〜っ/// 熱上がっても知りませんから///」
「大丈夫ですよ。軽く運動して汗を流せば…ね?」
「っ///」
「いいですよね?亜美」
亜美にしか聞かせない声で囁くと、真っ赤になっている彼女にそっと覆い被さった。
はい!お読み戴きありがとうございました。
無性に書きたくなって書いちゃいました。
結局、何を書きたかったんだろう?
ラブ甘を目指したはずが裏一直線になってしまいかねないこの感じ…
大気さんちょっと熱のせいで発言がエロいですね。
大気さんはこのまま亜美ちゃんを戴いちゃって、お風呂入って心身共にスッキリです(コラ)
では、お付き合いありがとうございます