大気×亜美 | ナノ




陽と陰

――コンコン

「……え?」
部屋で読書をしていた亜美は聞こえてきた音に思わず疑問の声をもらす。
今のはどう聞いてもノックの音。

母は先週から海外出張に行ったので、戻るのは早くても来週になると言っていた。
つまりこの家にいるのは亜美だけだ。
だからノックの音が聞こえるのはおかしい。
(気のせい...よね?)
部屋のドアではなく、窓からノックが聞こえるなんて、あるはずない。

――コンコン

「…えーっ…と」
どうやら気のせいではないようで、再び窓からのノックが聞こえる。
(もしかして……泥棒さん?)
亜美の住む部屋はマンションの10階だ。
オートロックだし、おまけに12階建てで、隣の建物はここより低い。
つまり上や、まして隣から入れるはずもない。

しかし、だからと言って無視するのも怖い。

亜美はそっとベッドから立ち上がり、気配を殺してそろりと窓に近付く。
こくりと小さく喉をならすと、意を決してきっちり閉められていたカーテンを開け放つ。

そこには――

「え?」
にっこりと綺麗に微笑む“彼女”がいた。
「………………」
亜美はたっぷり十秒は“彼女”を見つめ――カーテンを閉める。

「あたし…疲れてるのかしら」
幻聴だけでなく、幻覚まで見るなんてと思いながら小さくため息をつく。
しかし、なぜ“彼”ではなく“彼女”なのかなんて考えを巡らせながら、その場にうずくまる。

――コンコンコン

さっきまでより一回多いノックの音に亜美は頭を抱える。
とりあえずわかった事は泥棒でも、幻聴でも幻覚でもないと言うこと。
うずくまったまま、カーテンを三分の一ほど開く。
自室に面したベランダには、さっきと同じ人物――セーラースターメイカー――がいた。
亜美は窓の鍵を開け、カラカラと扉を開く。

「こんばんは。亜美」
うずくまる亜美をどこか楽しそうに見つめながら、きちんと挨拶をしてくれるところはさすがだ。

「…こんばんは。何を、してるんですか?」
亜美が立ち上がりそう聞くとメイカーは笑みを深くする。
「…っ」
大気もメイカーもこういう笑顔を見せるときは“何か”ある。

「亜美?」
「…はい?」
「どうして離れるの?」
「いえ…お気になさらず」
「ふーん」
「…っ、あの、どうして窓から?」
「明かりが点いているのが見えたから」
「どこからですか?」
反射的に聞き返してから、野暮な事を聞いたなと思った。
メイカーはくすりと笑うと、少し上空を指差す。
「そうですか…」
それだけ言うと、亜美はメイカーから視線をそらす。

「亜美」
「なんでしょう?」
「どうしてそんなに私を警戒してるのかしら?」
「別にそういうわけじゃないです」
「そう?」
メイカーは楽しそうに亜美を見つめる。

「会いたかったのよ」
「え?」
「ついさっきまで仕事でね?終わったらどうしても亜美に会いたくなったのよ」
「っ///」
赤くなる亜美にメイカーはくすくすと笑う。

「あ...の///」
「何かしら?」
「その…どうしてメイカーで来たんですか?」
いつもなら“大気”で車で来るのに。
「今日は車じゃなかったし、それに」
「?」
「“こっち”の方が車よりずっと速いのよ」
「…はぁ」
それはそうだろう。
なんと言っても“彼女”は“流れ星”なのだから…。
それにしたって…。

「亜美」
「えっ?ーっ」
さっきより低い――聞きなれた――声に亜美が驚き顔をあげる。
少し考え事をしていた一瞬に、メイカーから変身を解いたらしい大気が部屋に入ってきていた。
靴はきちんと脱いでおり、窓もカーテンも閉められている。
亜美の目の前には愛しい“彼”がいる。

大気にすくうように指先でくいと顎を持ち上げられたかと思うと――ちゅっ...とくちびるを奪われる。

「っ///」
大気は突然の事に驚く亜美を優しくそっと抱きしめ、後頭部に手をそえ、くちづけを深くする。
「んぅっ///」
亜美とのキスをたっぷり味わうと、大気はそっとくちびるを離す。
「はぁっ/// 大気さん///」
甘く吐息をつく亜美をぎゅっと抱きしめ耳元にくちびるを寄せる。
「――――――」
「っ/// 大気さん///」
大気は亜美の少し潤んだ瞳をまっすぐに見つめ綺麗に微笑む。
軽々と亜美を抱き上げベッドに彼女を運び、優しく押し倒す。










お読みいただきありがとうございます。

メイカーさん窓から夜這い(え?)の話は前々から書きたくて、書いちゃいました。

大気さんよりメイカーさんの攻めっぽいなぁとか思ってみたり?

書きはじめる前の段階では亜美ちゃんにチューするのもメイカーさんの予定でした(爆)
でも、大気さんが出せって言うから…。

あ、ちなみにタイトルは『ひとかげ』と読みます。
東洋医学概論では男性が『陽』で、女性が『陰』なので、まさに大気さんとメイカーさんは表裏一体ですね。

大気さんもメイカーさんも亜美ちゃんのことを心から愛してます。

では、お付き合いありがとうございました!



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