大気×亜美 | ナノ




甘い薬

大気さんの部屋で二人で読書。

大気さんの隣に座って特に会話をするわけでも無く、あたし達は本を読む。

部屋には、時折お互いの本をめくる静かな音だけが聞こえていた。

大好きな本と、大好きな人。

大好きな時間。



「大気さん」
ふと大好きな彼の名前を呼ぶ。

だって、そしたら

「はい。どうしました?」

大気さんの意識は本からあたしに向く。

いつだったか、星野君が言ってた。
「大気は本に夢中になると名前呼んだくらいじゃ気付かないんだ」
って。

「そんなとこそっくりだね」ってうさぎちゃんに言われた。

だから試しに大気さんが読書に夢中になってるときに名前を呼んでみた。

そしたら大気さんは、今みたいにちゃんと返事をしてくれた。



何度かそんな事を繰り返して気付いた事。

『あたしが呼べば大気さんは答えてくれる』って。

あたしだけが“特別”なんだって思えた。





「なんでもないです」

そんな小さな独占欲を知られたくない。
そんな些細な事で“嬉しい”って感じられるほどに、
大気さんの事が好きなんだって思ったら、すごく恥ずかしい…

それに、もしその事を知ったら、きっと大気さんは悪戯っ子みたいに笑って、
あたしをからかうに違いない。

大気さんのそんなトコロを知ってる女の子もあたしだけだったらいいのに…
なんてワガママな事を思ってしまう。



「ちょっと呼んでみただけです」

あたしがそう言うと、大気さんは優しく笑ってくれる。

「どうしたんですか?」
そう言いながら、くすりと笑って、あたしの髪を大きな手で優しく撫でてくれる。



「亜美」
少しクセのある声で名前を呼ばれるのが――すごく、好き。

大気さんはよく、あたしの眼を覗き込むように、じっと見つめる。

いつ見ても“綺麗”って思う。
大気さんのアメジストの瞳に吸い込まれそうになって、
恥ずかしいからあたしはつい眼を反らせてうつむいてしまう。

“あ、しまった”と思った時には、
大気さんの吐息が耳にかかってあたしは思わず身をすくめる。

「亜美」
さっきよりもずっと甘い大気さんの声。

大気さんの蜂蜜みたいに甘いその声を、あたしは無視できるはずもなくて…

顔を上げると、大気さんの顔があって、アメジストの瞳が、あたしを射抜く。

――トクン…

まるで暗示にかけられたみたいに目が反らせない。

「亜美」
もう一度、名前を呼ばれて、大気さんの顔がさらに近付いてくる。

思わず目を閉じると、唇にやわらかい感触。
それは、すぐに離れてまた触れる。

何度も…何度も…

だんだんと恥ずかしくなってきて、顔を反らせる。

「亜美」
クスリと笑いながら、名前を呼ばれる。

「こっち向いてください?」
頭を横に振ると「そうですか」と、声が聞こえた。

「じゃあ仕方ありませんね」
そんな楽しそうな声が聞こえたかと思うと…

「きゃあっ!?」
思わず悲鳴をあげてしまった。
だって大気さんがっ…
耳を…攻めてくるから…

あたしが、耳が弱い事を知ってからと言うもの、
時々こうして耳を狙いすまして苛めてくる。

どれだけ抵抗しても、“やめて”ってせがんでも、
大気さんは何故かすごく楽しそうで…

「亜美、可愛い」
耳元で、低く甘く囁かれてそのまま舌を這わされる。
ゾクリと肌が粟立つ。



大気さんは、狡い…

あたしが弱いところを知り尽くして、こうして責めてくる…

「っ!」
声を抑えるのに必死になっていると、
耳元で大気さんにまた名前を呼ばれた。

「亜美、声聞かせてください?」
大気さんの口調はいつも丁寧なのに、抵抗できないのはどうして?

「やぁっ…」
必死で抵抗しても、すぐに負けてしまう。

だって大気さんの声も、優しい手も、
アメジストの瞳も、全部が、
あたしには“甘い薬”だから。

「亜美、こっち向いてください?」
その声に誘われるように大気さんを見上げたら、
とても綺麗な笑みを浮かべていて、思わず見惚れてしまった。

「可愛い」
そう言って“チュッ”と音を立てて唇を奪われた。

わざとだ…

そうやって、あたしの羞恥心は暴かれて、さらけ出されて、
心も身体も、大気さんでいっぱいにされる。

あたしの全てが大気さんに支配される。

「亜美」
そっと瞼を閉じると、さっきよりも深く激しいキスをされて、
軽い酸欠に見舞われて頭がクラクラする。

身体がふわりと浮いたかと思うと、背中に柔らかな感触。

目の前には瞳に情欲を溢れさせた大気さん。

「亜美が誘ったんですよ?」
そう言ってさっきよりもずっと…妖しく綺麗に笑う。

「いいですよね?」
返事を待たずに、あたしの洋服のボタンに
大気さんの長くて綺麗な指が触れた…

ここで“ダメ”って言ったって、きっと弱いところを甘く責め立てられて
「本当に?」って意地悪く聞かれる。

前にも似たような事があって、さんざん焦らされて、
結局あたしは大気さんを求めた…

あたしが“おねだり”をすると、
大気さんはすごく嬉しそうに妖しく笑って、
あたしが気を失うまで何度も、何度も……。



大気さんは優しい。
でも、時々ちょっと意地悪で
普段は大人びてるのに、
たまにすごく子どもっぽくて、

あたしはそんな大気さんの全部が大好きで…



「大気さん」
あたしが呼ぶと優しく微笑んで、ギュッて抱きしめてくれる。

「優しく、して?」
そう言って大気さんの背中にしがみつくように抱きつくと、
耳元で彼はクスリと笑った。

「亜美の“おねがい”を聞かないわけにはいきませんからね。
精一杯優しくします。覚悟してくださいね」

そう言って大気さんの唇が、あたしの唇にそっと触れる…





ねぇ、大気さん。

あたし本当はすごくワガママなんです。

大気さんが思ってるような
“可愛い”女の子なんかじゃ、ないんです。



ねぇ、大気さん。

あたしたくさん嫉妬してるの。

貴方がテレビでキレイな女優さんと
共演しているところを見るたびに。

雑誌で魅力的なモデルさんと
写っているところを見るたびに。

――チクリと胸が痛むの。

『お仕事』だって“わかって”るのに…
頭では“解って”るのに
心が“判って”くれない…

ううん…違う…

“わかりたくない”んだ。

あたしは……なんて、浅ましいんだろう…

大気さんの傍にいられるだけで、
すごく幸せなのに……。

両想いになれて、
付き合い始めた頃は
ホントにそれだけでも
充分だったのに…



どんどん
欲張りになっていく。



ねぇ、大気さん。

大気さんが思ってるような
“可愛い”あたしじゃなくても
受け入れてくれますか?

優しい笑顔をあたしに向けてくれますか?

優しく髪を撫でてくれますか?

“好き”って

“愛してる”って

言って、くれますか?



ねぇ、大気さん。
どうしようもないくらいに
――――貴方の事が
    好きなんです







読んでくださってありがとうございます。

今回は亜美ちゃんの独白にしました。

後半ちょっと亜美ちゃんのキャラが…ね?

亜美ちゃんは、あんまり思ったことを口にしないだろうなぁって思います。

相手のことを気遣ってって言うのもありますが、そんな事を言ったら相手に迷惑がかかるとか、嫌われちゃったらどうしようって思うんじゃないかなぁって。

そこは亜美ちゃんの臆病なところで、いざとならなきゃ言わなさそうだなって。

なんかわけわからんくなって来ましたね。

とにかく亜美ちゃんは大気さんが大好きなんです!

では、お付き合いありがとうございました。



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