大気×亜美 | ナノ




HAPPY BIRTHDAY TO LOVE

午後10時57分



スタジオの地下駐車場を目指してひた走る影がある。
後ろで一つに束ねられた栗色の長髪を揺らして走るスリーライツの大気光。

自身の愛車にたどり着いた大気は、遠隔操作でロックを解除した車に素早く乗り込むと、助手席に大切そうに持っていた荷物をそっと置く。

「これならなんとか間に合いそうですね」

時計を見つめ一人そう呟き、シートベルトを締めると、エンジンをかけ車を発車させる。

普段、冷静な大気がこんなにも焦っているのには理由がある。



――時刻は少し前に遡る

午後十時を回ったスタジオ。

「星野君そのまま!
大気君そこから目線こっち!
夜天君もう少し顔上げて!」



――バシャッ



「じゃあ場所変わって次、大気君センターで!」
「はい」

スリーライツの三人は衣装に身を包み、スポットライトをあびカメラマンと向き合っていた。



“スリーライツ復活”のニュースは日本中を騒がせた。
復活会見で、復活シングルと写真集発売を発表した彼らは慌ただしい日々を過ごしていた。

故郷であるキンモク星を旅立ち、八月半ばに地球に降り立った。

九月になり、十番高校に再転入し、学生とアイドルの両立の毎日。

以前の彼らは火球皇女を探すために、彼女に自分達の歌を届けるためにアイドルをしていた。
そのため、なによりもそちらを優先していたのだが、今回は違う。



『俺達は、今しか経験できない学生生活も楽しみたいと思っています』
『スリーライツとしてじゃなく、僕達が一人の人間として学べることがあると思っています』
『身勝手だとは分かっています。ですが、私達は出来るだけ学生生活もしっかりとしたいと思います』

会見で、彼らは出来る限りで学校を優先にすると宣言した。

それでも、仕事を疎かにしないということを三人は話し合って決めていた。



今日も午前中だけ学校に行き、午後から写真集の撮影をしていた。

今日のスケジュールは日中から夕方にかけてが外、日が暮れてからはスタジオでの撮影となっていた。

休憩に衣装チェンジ、写真チェックをしながら撮影は進んでいた。



――バシャッ



「はーい!オッケーです!」
「本日の撮影はここまでです!みなさんお疲れ様でした!」
カメラマンからのオッケーが出たことで、スタッフが撮影終了を告げる。

「お疲れ様です!みなさん!」
スタッフがライツの三人に飲み物を持っていく。

「「「お疲れ様です」」」

「お茶とスポーツドリンクどっちがいいですか?」
「俺スポーツドリンク」
「僕、お茶」
「…………」
「大気さん?」
「あ、はい」
返事がないことを不思議に思ったスタッフが大気を呼ぶとハッと気付いたように返事をした。

「どっちがいいですか?」
「お茶をおねがいします」
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
大気は受け取ったお茶を開けると一口飲み、ふぅっと息をはく。



「三人ともお疲れ」
飲み物を持ってきてくれたスタッフと入れ違いにカメラマンが近づいてきた。

「「「お疲れ様です」」」

「三人とも良かったから、こっちも乗ってきちゃって夢中になってシャッター切っちゃって、気が付いたら予定より一時間半も押しちゃってたよ」

そう言いながらハハハと笑うカメラマン。

「でもおかげでいい写真が撮れたよ。今度の撮影もよろしく。
それじゃ今日は帰ってゆっくり休んでね。お疲れ様」

「はいっ!お疲れ様です」
「お疲れ様です。富田さんもゆっくり休んでください」
「お疲れ様です。またよろしくおねがいします」
三人はきちんと挨拶を返し、他のスタッフにも挨拶をして回る。



「ねぇ、星野」
夜天が、星野に小声で声をかけた。
「なんだよ?」
つられて星野も声をひそめる。
「大気、相当焦ってるよね?」
「あぁ、本人は平静を装ってるつもりらしいけどな」
二人はちらりと大気をみた。

普段の彼なら「なんですか?」と、声をかけてくるところだ。
しかし、聞こえていないのか、そんな余裕がないのか無反応だ。

「確か、この衣装ってもう使わないんだったよね?」

三人が着ているのは、写真集のために用意された衣装のひとつで、カジュアルな服装である。

「あぁ、スタイリストさんがそう言ってたな」
「ふーん…」
「夜天?」

夜天はにっと笑うと、近くのスタッフに声をかけた。
「すみません。今回の写真集の衣装って気に入ったら、買い取っていいんですよね?」
「はい。そうですよ。あ、もしかして夜天君気に入りました?」
「うん。だからこれ買い取っていいですか?」
「えぇ。どうぞ」

夜天の思惑が読めた星野は、にやりと笑うと声をあげた。
「偶然だな!実は俺もこの衣装の色合いとかが気に入ったんだよ。秋っぽいし、これからの季節にぴったりだからさ」
「じゃあせっかくだし三人とも買い取っちゃおうよ」
「それいいな!んじゃそーゆーことでよろしくおねがいします!お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」

少々驚いていたスタッフも「お疲れ様でした」と挨拶を返した。

「ほら、大気」
「え?」
「とりあえず楽屋に戻るよ」
「あ、はい。それではお疲れ様でした」

スタジオを出て、扉を閉めた星野と夜天は、前を歩く大気の背中をバシッと叩く。

「いっ!」
「「ダッシュ」」
「は?」
「『は?』じゃねーだろ?
さっさと楽屋に戻って、荷物持って行けよ?」
「着替えてる時間も惜しいでしょ?衣装のまま行ったらいいよ。着てた服は僕らが持って帰るからさ」

「――二人とも…」
大気は思わず二人を見つめる。

「ほら、急げって」
「きっと待ってるよ」
「ありがとうございます!」
言うや否や大気は走り出した。

「おぉ、はえ〜っ」
「まったく…世話のかかる」
「お前が言うなよ…」
「僕は自分の気持ちには素直な方だよ」
「あー、まぁ…な」
「大気も水野も頭で物事を考えすぎだよね」
「ホントそーゆーとこそっくりだよな」
「でも、だからこそ惹かれ合ったんだよ。きっと」
「……」
「…なに?」
「……いや…夜天こっち戻ってからちょっと変わったよな?もちろんいい意味でだぜ?」
「ありがと。星野もね」
「そっか?サンキュ」
「もちろん大気もね」
「あぁ、そうだな」



――バタン

楽屋に戻った大気は自分の荷物を持って、すぐにそこを飛び出し、地下にある駐車場へと向かった。

――そして冒頭へ。



車を飛ばし、スタジオから15分ほどで亜美のマンション近くにたどり着く。
大気はコインパーキングに車を停め、助手席の荷物を持ち、車を降りる。

亜美の住むマンションは目の前だ。

大気は亜美の部屋番号を押しチャイムを鳴らす。
『はい?』
耳に心地好い声がスピーカーから聞こえる。

「こんばんはお姫様」
『大気さん!』
「お邪魔しても構いませんか?」
『はいっ!どうぞ』
「ありがとうございます」

オートロックが解除されたドアを開け、大気は亜美の部屋へと向かう。



(来てくれ…た)

日付が変わってからの電話で。
そして学校で。
大気は言っていた。

『仕事が終わったら必ず会いに行きます』と。

仕事で忙しいんだから、無理はして欲しくない。
それでも、やっぱり会いたいと――遅くなってもきっと来てくれると思っていた。



大気は部屋のチャイムを鳴らす。
「はい」と返事が聞こえ、鍵の開く音がしてドアが開く。
ひょこっと顔を覗かせて、少し驚いた表情のあと、とびきり可愛い笑顔を見せてくれるのは誰よりも愛しい彼女。



「こんばんは。亜美さん」
「こんばんは。大気さん。お仕事お疲れさまです」

亜美のその言葉に、大気は笑顔で「ありがとうございます」と、返す。

「上がらせていただいても構いませんか?」
「もちろんです」
「では、お邪魔します。今夜は亜美さんお一人ですか?」
「はい。母は夜勤なんです」
「――そうですか」



大気は亜美の部屋に入り、座って彼女が戻るのを待つ。

亜美は紅茶を淹れてすぐに戻った。
「お待たせしました。
大気さん疲れてそうなので、少し甘いロイヤルミルクティーにしてみたんですけど、良かったですか?」
「えぇ、ありがとうございます」

亜美は紅茶の入ったマグカップをテーブルに置き、少し考える素振りを見せる。

大気がポンポンと隣を叩くと、ちょこんとそこに腰を下ろす。

「いただきます」
大気はロイヤルミルクティーに息を吹きかけ少し冷ましてから、一口飲む。

「おいしいです」
そう言って微笑むと、亜美はホッとしたようにふわりと笑う。

「良かったです」

二人で暖かいロイヤルミルクティーを飲む。
何も話さなくても、心地好い時間。

仕事の慌ただしさに追われている大気は、こうして亜美の傍にいるだけで疲れが癒されていくのを感じる。



そんな彼女に伝えなくてはならないこと。
渡さなくてはいけないものがある。



「亜美さん」
「はい」
大気は、少し緊張しながら彼女を呼ぶ。
電話では伝えたけれど、やはり直接伝えたい。
二人きりで言いたいと思ったのだ。



「お誕生日、おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」
亜美は、恥ずかしそうに微笑む。

「これ、プレゼントです」

大気はそう言い、綺麗にラッピングされた片手にのるくらいの大きさの箱を亜美に渡す。

「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「もちろんです」
亜美はリボンをほどき、そっとラッピングを開ける。

中には黒い箱があり、亜美はそれをパカッと開ける。



そこには――――

「こちらに戻ってきた時、亜美さんに初めての誕生日プレゼントを渡すなら、絶対に時計にしようと決めていたんです」

大気はプレゼントを見つめたまま固まった亜美に、そっと話しかけながら、大気は自分の荷物をゴソゴソと探り、同じ型の男性用の腕時計を取り出す。

「これから私達は、この地球-ほし-で、一緒の時間を過ごしていけるんだと、どうしても亜美さんに伝えたかったんです」
「大気さんっ…嬉しいです/// 本当にありがとうございます」

亜美はそう言って、箱から貰った腕時計を取り出す。
「大切にします」
蒼い瞳を涙で潤ませて微笑む亜美は――とても綺麗だ。

「亜美さん」
大気は、そっと亜美を抱き寄せる。
「大気さん///」

「十七歳おめでとう。これからも、ずっと私の傍にいてください」
「はいっ///」
二人はどちらからともなく、顔を近付け、そっと触れるだけのくちづけを交わした。






読んでくださってありがとうございます。

お誕生日おめでとう亜美ちゃん!

なんかすっごいグダグダな文章になってしまいましたが…間に合いました!

ちなみにタイトルは、私の尊敬する水野亜美ちゃん役の声優【久川綾】さんの曲からいただきました!

しかし、今回は大気さんがやたら「亜美」って呼びたがって大変だった(そこか?)

これからも亜美ちゃんは、誰がなんと言おうが私の中では永遠のヒロインです!

お付き合いありがとうございましたっ!



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