▼お花見 −星うさ− 星野ははらはらと舞い散る淡いピンクの花弁を追いながら綺麗だなと思う。 陽射しもポカポカと暖かくとても心地良い。 そんな中に愛しい彼女と二人でいられるのはこれ以上ないほどに幸せだ。 我侭を言わせてもらえるのなら彼女も幸せそうに桜を見つめてくれていると文句なしなのだが… 「ん〜っ♪おいし〜っ♪」 二人の間に置かれた透明な簡易容器から桜色の物を取り上げ口元に運ぶ彼女はそれはそれは幸せそうで、少し望んでいたものとは違うが… (まぁ、おだんごが喜んでくれてるからいいか) そう思いながら自分も簡易容器に手を伸ばすが、そこには何もない。 「……おい?」 「ん〜?ろひたの?」 うさぎがモグモグと口を動かしながら不思議そうな視線を送ってくる。 「俺の分の桜餅は?」 星野が聴くとこくんと喉をならして「え?食べたんじゃないの?」と首を傾げる。 「ひとつも食ってねーよ!」 「えぇぇぇっ!おいしかったのに!」 「だったら一個くらい残しといてくれてもいいだろ!」 「さっさと食べてない方が悪いんじゃない!」 「普通一気に桜餅十個も食べるか!?」 「おいしかったんだもん!」 「はぁっ…いいよ…もう」 星野はそれ以上は言い返さずにため息をつく。 「気に入ってくれたなら良かったよ」 美味しいと評判の和菓子屋で買ってきたかいがあった。 「それよりおだんごが花見したいって言ったんだろ?桜餅食べ終わったなら少しは桜を見ろよ?」 「み、見てたわよ…」 「ホントかぁ?桜餅しか見てなかったようにしか見えなかったぞ?」 星野がニヤリと笑うとうさぎが押し黙る。 「今から見るわよ!」 「そうだな。こんなに綺麗なんだからちゃんと見とかないともったいないからな」 「うん」 二人は黙って桜を見つめる。 「星野」 「ん?」 「今日はありがとね」 お花見に行きたいと言った自分のためにきついスケジュールを組んでいた事を分かっていた。 「俺がおだんごと花見に来たかっただけだからいいんだよ」 「うん」 「まさか桜餅全部食べられるとは思ってなかったけどな」 「もぉーっ!しつこ…あっ!」 「おい!どこ行くんだ!」 「すぐ戻るから待ってて!」 言いながらうさぎはパタパタとどこかに行き五分ほどで戻ってきた。 「はいっ!お待たせ!」 桜餅と同じような容器をあける。 「これって…」 「三色団子。星野さっき桜餅当たらなかったからお腹空いてるかと思って公園の前で売ってたの思い出したから」 「おぉ、わざわざサンキューな」 星野がお礼を言うと同じ容器が隣に置かれてギョッとする。 「おい?なんでもうひとつあるんだ?」 ひとつの容器に10本入りで合計20本。 「あたしも食べたかったから」 「まだ食べるのかよ!?」 「だって出来たてだったの!」 「そうか…いただきます」 三色団子を頬張る。 「お!うまい!」 「良かったぁ♪あたしもいただきまーす」 うさぎも三色団子を頬張る。 「ぷっ…共食い」 「そんな意地悪言うなら星野にはもうあげない」 拗ねたうさぎに星野は悪戯っ子のように笑う。 「俺は別にそっちのお団子じゃなくていいぜ?」 「え?」 「おだんご−お前−の方がいい」 「なっ///なにゆってんのよバカぁ///」 真っ赤になるうさぎに星野の理性がぐらつくが公衆の面前。 「なーんてな。びっくりしたか?」 芸能人スキルの演技力でその場をやり過ごす。 「も、もぉっ!信じらんない!ばかっ!」 「ごめん」 ふくれてしまった彼女の機嫌をとるためのとっておき。 「機嫌なおせよ──うさぎ」 囁くように彼女の耳元で名を呼ぶと耳まで赤くなる。 「ずるいっ///」 「ごめ…むぐっ!?」 恥ずかしくなったうさぎは星野から視線を逸らし、おもむろに三色団子を押し付ける。 「星野のばか///」 そう言いながらも嬉しそうなうさぎに星野は団子と一緒に幸せを噛みしめた。 |