▼お花見 −夜美奈− 「夜はまだ寒いわねぇ」 髪を風になびかせながら言う美奈子の後ろ姿をじっと見つめる。 「うーん…まだどれもつぼみかぁ…」 「来週にならないと桜は咲かないってテレビでも言ってたでしょ?」 キョロキョロしながら呟いた美奈子に夜天ははぁっとため息をついて呆れたように言う。 「そうなんだけど…」 「けど…なに?」 「一本くらいうっかり咲いてたりしないかな、って…」 「そんなのないでしょ?」 「あるの!たまに、だけど…」 「ふーん…」 夜天は先程の美奈子と同じように公園内を見渡すが、やはり彼女の望むうっかりした桜の樹はないようだ。 「来週、桜が咲いてからくればいいじゃない?」 しょんぼりした美奈子の後ろ姿に夜天は言う。 「そうなんだけど…」 美奈子にしては歯切れが悪く、夜天は不思議に思いながら彼女の隣に立つと視線で先を促してやる。 「夜天君来週から忙しくなるでしょ?」 「まぁ、そうだけど…」 「だから今日夜天君と見られたらって」 「でも、わざわざこんな公園に来なくても学校にも桜あるよね?」 「咲いてるけどそうじゃないの!あたしは夜天君と二人で桜が見たかったの!だから…ひとつくらい咲いてたらいいな…って…」 夜天は小さくため息をつくとそっと彼女の手を取る。 「行くよ」 そう言うと驚いている美奈子の手を引きスタスタと歩く。 「え?ちょっ、夜天君?どこ行くの?」 ライツマンションと反対に向かって歩く夜天に美奈子は聞くが夜天は黙ったままたった。 「はい、着いたよ」 十五分ほど歩いたところで夜天は足を止めた。 「ここって…」 「さっさと変身して」 「えぇっ!?」 夜天は素早くヒーラーに変身するとひらりと難なく中に入り即座に変身を解く。 「ほら、美奈も」 「う、うん」 戸惑いながらもヴィーナスに変身すると中に入り込み変身を解いた。 「よし、じゃあ行こう」 「ちょ、ちょっと待って夜天君」 「なに?」 歩き始めた夜天を呼び止めると美奈子はさっきからの疑問を解決しようと口を開いた。 「なんで学校?」 「この時間なら人いないでしょ?」 「そうじゃなくて…むぐっ」 「見つかったら厄介なんだから静かに」 美奈子はこくこくと頷くとおとなしく夜天について行く。 たどり着いたのは自分たちの教室がある校舎とは反対の校舎の裏側。 「わぁっ♪すごーい」 「でしょ?」 二人の目の前には五分咲きの桜。 目を輝かせながらまだ蕾もある桜を見つめる美奈子の横顔に夜天はくすりと笑う。 「満足?」 「うんっ!」 美奈子は嬉しそうに笑顔を見せた。 「それにしてもいつ見つけたの?」 「今日の五限目」 「五限…って、あ」 夜天がいなかった事を思い出す。 「こんなトコロでサボってたの?」 「ここだけすごく日当たり良くてさ、ちょっとした昼寝のつもりだったんだけど…」 「あたしも一緒にお昼寝したかったぁ」 「そっち?」 美奈子らしい反応にくすくすと笑う。 「ねぇ、夜天君」 「ん?」 「明日、お昼ここで食べよう?」 「その後に昼寝していいんなら」 「えぇっ…でも明日の五限体育だし…」 体を動かすことが好きな美奈子が本気で悩みだし、夜天は少しの苛立ちを押し殺して悪戯っ子のように笑う。 「体育と僕と二人きり、どっちがいいの?」 「夜天君と二人きり///」 「決まりだね」 「うん!」 「分かってるだろうけど誰にもバレないようにしてね?特に大気には」 「うん」 「月野にも言っちゃダメだよ?」 「だーいじょぶよ♪」 胸を張る美奈子に夜天は優しく微笑んだ。 次の日の昼休み。 「今日は別行動で」とみんなに告げてそそくさと教室をあとにして二人でお花見しながらランチを楽しみ、そのまま二人でひなたぼっこをしながらたっぷりと昼寝を満喫して五限目をサボった事をみんなに呆れられ、大気から叱られるのはまた別のお話。 |