Fruits Basket | ナノ

▼お花見 −大亜美−

「突然なんですが今からお時間いただけますか?」
昼休みに入ってすぐ、急いで仕事に向かったはずの大気からの突然の誘いに少し驚きながらも亜美は「はい」と答えた。
「良かった。では今から二十分ほどでお迎えにあがります」
大気は亜美の返答に安心したように電話を切った。

驚いてどこに行くのかを聞かなかったと思いながら亜美は素早く着替えを済ませ戸締まりをして家を出る。
マンションの自動ドアが開いた瞬間に感じる空気は昼間の陽気が嘘のように肌寒さが残る。
しっかりと寒さ対策はしておいた。
そうでないと大気に余計な心配をかけてしまう。

五分ほど待っていると目の前に見慣れた車が停まり、亜美が助手席に乗り込むと車は再び走り始める。
「突然すみませんでした」
申し訳なさそうな大気に「いえ」と首を横に振り亜美はふわりと微笑む。
「お仕事お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
大気も亜美に微笑み返す。

「あの…?」
大気は少しだけ不安そうな亜美に「着いてからのお楽しみです」とイタズラを企む子どものような笑顔を見せて、他愛ない話をしながら車を走らせること一時間。
車を停めた大気は先に降り助手席のドアを開く。
「亜美──ちょっとお願いがあるんですが…」

五分ほど歩いたところで大気は足を止めて抱き上げている亜美を見下ろし、頭上を見上げ小さく微笑む。
「大気さん?」
少しだけ不安そうな声。
「もう目を開けていいですよ」
「え?あの…下ろして、ほしいんです、けど」
「このままの方がよく見えますから、ね?」
「は、はいっ」

恐る恐るゆっくりと亜美が瞳を開くとそこには自分を見下ろす大気の優しい笑顔と
「……さくら」
満開の桜と月。
「本当はもっと早くに一緒に来たかったんですが……」
俗にいう桜であるソメイヨシノが満開の頃、大気は多忙を極め学校も欠席していてとてもそんな余裕がなかった。

桜はほぼ葉桜となってしまい諦めていたのだが、今日の仕事が近くでありその時にスタッフが地元民しか知らない八重桜の穴場があるとこっそりと教えてくれたのだ。
「それで、どうしても亜美と来たくて」
「ありがとうございます。すごく嬉しいです」
亜美はぎゅっと大気に抱きつく。

いつも恥ずかしがってなかなか自分からは意思表示をしてくれない亜美からの行動に大気は愛しさがこみ上げる。
小さな体を抱きしめるとハッと気付いたように顔を上げる。
「亜美?」
「あのっ…ごめんなさい!あたしっ」
泣き出しそうな亜美を安心させるために抱きしめる力を強める。

「どうしました?」
「お、重い、です、よね?」
「…は?」
「だ、だから!下ろしてください」
大気は亜美を驚かせるために車を降りてから目隠しのために彼女をお姫様抱っこしたままだった事を思い出す。
「私はもう少しこのままでいたいんですが?」
「恥ずかしいからダメです」

大気は残念に思いながらもついさっき亜美から抱きついてきてくれた事もあるし今はまぁいいかと思い、そっと彼女を下ろす。
「ありがとうございます」
恥ずかしいのか大気の方は見ずに亜美は少しだけ歩を進めて視線を上げる。
亜美はよっぽどこの景色を気に入ってくれたようだ。

少し強い風が吹き花びらがはらはらと舞い踊り、そこに浮かぶ亜美の姿はとても綺麗でそれでいてどこか儚いくて幻想的で、まるで一枚の絵のようだと思いながら大気はスマートフォンを取り出す。
「亜美」
彼女の名を呼ぶと笑顔で振り向いてもらえたので素早くシャッターを押す。

「あっ」
「せっかく桜がこんなに綺麗なんですから一枚くらい撮っておきたいじゃないですか?」
笑って言うと亜美が「まぁ、確かに」と困ったような表情を見せる。
「でも、それだったら桜だけ撮ればいいじゃないですか?」
「ダメですよ。そこに亜美がいないと意味がありません」

大気はさらに続ける。
「いくら綺麗な景色でもそこに亜美がいないのなら、私にとっては無価値なんです」
「ーっ///」
亜美が恥ずかしそうに視線を逸らすと大気は優しく笑う。
「亜美」
そろりと視線を上げてふわりと微笑む亜美の桜色の頬に大気はそっと口付けた。

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Category:セーラームーン

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