Fruits Basket | ナノ

▼クリスマスの夜に −大亜美−

――コンコン

「きゃっ!」
亜美は窓から聞こえたノックの音に思わず悲鳴を上げる。
そして以前に同じような事があった事を思い出し、まさかと思いながらそろりとカーテンを開く。
そこにいるのが誰なのか、なんとなく確信的にわかってはいてもやはり驚かずにはいられない。

真冬だと言うのに、露出の高いコスチュームに身をまとい、栗色の髪をなびかせる。
「なにを、してるんですか?」
そっと窓を開けて問いかける。
ここにいてはいけないはずのその人物のアメジストの瞳を、戸惑いの眼差しで見つめる。

『すみません。予定していた25日に帰国できなくなりました』
大気からそう連絡があったのは24日のクリスマスイブ。
亜美がみんなと出かける準備をしていた時の事。
時差を考えると大気のいるところはまだ午前四時すぎだったはずだ。

帰国が遅れるのは急遽別撮りが決まった大気だけとの事で、亜美はうさぎと美奈子が寂しい思いをせずにすんだ事に安堵した。
『本当にすみません』
申し訳なさそうな、どこか悔しそうな大気の声に亜美は胸がしめつけられそうになる。
大気が謝ることはないのに、と。

スリーライツは年末年始はそれでなくても忙しくて、少し会う時間を作るだけでも大変なはずで、帰国を予定していた25日は翌日に備えてゆっくり休むようにという事務所からの計らいだったらしい。
「“何を”?」
いつもより高い声音が冷たい風に乗って亜美の鼓膜をくすぐる。

「本当に私がここにいる理由が…」
そこまで言ったセーラースターメイカーが躊躇いなく変身を解いて、瞬きひとつで大気へと戻り、履物を脱ぎ捨て部屋の中に入り窓を閉めて風を遮断する。
「分からないんですか?亜美」
大気にまっすぐな視線で射抜かれた亜美は小さく息を飲む。

「会いたいと思っていたのは、私だけですか?」
「っ!」
大気の言葉に思わず感情が口をついて出そうになるのを亜美は理性で押さえるために、キュッと唇を噛み締めて俯く。
「っ、そんな事言ってこんな所にいる事がばれたらどうするんですか?」
「構いません」

遠慮がちな亜美の言葉に大気は表情ひとつ変えずに言い切ると、そのまま彼女を抱きしめる。
「大気さ…っ!」
「亜美」
「ーっ」
大気のぬくもりと優しい声に、亜美がひくりと息を飲む。
「本当はいけないってわかっていても、それでもどうしても亜美に会いたかったんです」
「っ」

「亜美は、私に会いたくなかったですか?」
「ーっ、そんな、事…っ」
「うん?」
「そんな事、ありません…っ」
「そうですか」
嬉しそうな大気の声に亜美の感情があふれる。
「あたしも、大気さんに会いたかったです」
大気の背中に腕を回して、ギュッと抱きついた。

「本当は25日に間に合わせたかったんですけど…」
亜美がいれてくれた紅茶を飲んだ大気が口を開いた。
セーラースターメイカーに変身して流れ星よろしくとばかりに飛んできたものの亜美の部屋の窓を叩いた時、すでに26日になっていた。
「謝らないでください」
亜美が慌てる。

「こうして会いに来てくれただけでも嬉しいです」
そう言って少し恥ずかしそうにふわりと笑顔を見せる亜美の笑顔に大気はふっと微笑む。
「明日、というより、今日の夜にちゃんと帰ってきますから」
「はい」
「時間は遅くなってしまいますが、デートしましょう?」
「でも、大気さんお疲れでしょうし、それにお仕事が」
「そんな時間から仕事なんてまっぴらごめんです」
大気はピシャリと言い放つ。
「でも、次の日からお仕事なのに早く寝ないと」
「では、亜美が一緒に寝てくれますか?」
「えぇっ///」
「亜美が隣にいてくれればゆっくり休めますから、ね?」

「ーっ///」
「楽しみにしてますね?」
「えっ///あの///」
真っ赤になる亜美に大気はくすりと笑う。
「さて、名残惜しいですが、そろそろあっちに戻ります」
「あ…はい…」
一瞬、寂しそうにしながらも笑顔を見せる亜美に大気は愛しさがこみあげる。

だが、ここで理性を手放すわけにはいかないのでふぅっと息を吐くとメイカーへと変身をすませる。
窓をあけると、くるりと振り向き亜美の瞳をじっと見据える。不思議そうに首を傾げる亜美にメイカーはにっこりと微笑む。
「会えて嬉しかったわ」
「はいっ///あたしもです」
「それじゃ、おやすみなさい――亜美」
「はい、おやす…っ!」
チュッと亜美の唇にいつもより柔らかいそれが触れた。
「ーっ///」
「ごちそうさま♪それじゃあまた今夜ね」
セーラースターメイカーは亜美にウインクをひとつ贈ると一瞬で夜の空へと消えた。

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Category:セーラームーン

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