▼てのひら 「亜美は手袋はしないんですか?」 図書館からの帰り道、寒そうに手をこすり合わせる亜美に大気が声をかける。吐く息は白い。 「え?」 「寒そうなのに手袋をしているのは見た事がないので」 「そう、ですね…えっと…単語帳とか参考書がめくれないので」 亜美が応えると大気が小さく苦笑する。 「歩きながらはあまり感心しませんが…」 「……気を付けます」 亜美が言うと大気はくすりと笑う。 きっとこう言いながらもやめることはないのだろうと思う。 「亜美、左手を出してください」 「え?」 「いいから、ほら?」 亜美が左手を差し出すと―― 「大きいでしょうが我慢してください」 大気がキャラメル色のシンプルな手袋を外し、亜美の手にはめる。 「大気さんが寒いじゃないですか!?」 亜美が慌てると大気がふっと笑って彼女の右手をとると指を絡めてつなぐ。 「これなら温かいでしょう?」 「っ///あたしの手冷たいから、大気さんの手が冷たくなっちゃいます///」 「大丈夫ですよ」 「だめですっ///」 亜美が大気の手を離そうとするが、到底力で敵うはずがない。 「亜美…」 「ーっ」 「そんなに手を繋ぐの嫌ですか?」 「だっ…て…っ」 キュッと唇を噛みしめる亜美を見た大気は手袋を外してそっと頬に触れる。 「こら、唇切れますよ」 すっと唇をなぞる。 「っ///」 亜美が一歩身を引こうとするが、逆に大気に腕を引かれ繋いだ手がほどかれ抱きしめられる。 「そんな顔されたらキスしたくなるでしょう?」 「そんな事な「あります」 きっぱりと言い切られて亜美が耳まで真っ赤になる。 大気はぽんぽんと亜美の頭をやさしくなでると体を離す。 「手」 「え?///」 亜美の手袋をしていない方の手を優しくとり 「繋がせてくれませんか?」 そう言って掌に口付ける。 「た、大気さん///」 「さっきより暖かいですよ?」 「それは、大気さんの熱を奪っちゃったからです///」 「でも私の手冷たくないでしょう?」 大気に言われて気付く。 「でも///」 「なるほど…亜美はそんなに私と手を繋ぎたくないんですね…」 「違いますっ///」 大気の切なそうな声に亜美が驚いて顔を上げて言葉を返すと、声色とは裏腹にそこには少し意地悪な笑顔の彼がいた。 「違うんですか?」 「た、大気さんっ///」 「亜美が素直じゃないからです」 大気の言葉に亜美は俯く。 こんな時、どうすればいいのかわからなくて…亜美はいつも戸惑う。 「亜美」 優しい声に亜美がそっと顔を上げると優しく微笑みかける大気がいてくれる。 「行きましょう?」 そう言って差し伸ばされた手に、亜美は「はい」と答え小さな手を重ね合わせた。 |