▼まどろみ 「…ん」 ひんやりと朝特有の空気に少し肌寒さを感じ、そばにあったぬくもりへと身を寄せた。 (あぁ、あったかい…) 「…ぅぇ…?」 ぼんやりとまことの意識が浮上する。 いつもと同じ自分の部屋。 いつもと同じ自分のベッド。 いつもと違う――人のぬくもり。 まことの視界に飛び込んできたのは碧。 彼女特有の碧い髪。そこからはいつもの彼女とは違う──自分と同じ──シャンプーの香りが鼻腔をくすぐり、意識がはっきりとした。 (あ、そうだった) 昨日は、亜美が遊びに来ていた。 帰る予定だったが、突然の激しい雷雨。 時間が経っても止む気配はなく、そんな豪雨の中、傘を借りて帰ろうとする亜美に半ば強引に泊まっていくように押し切ったのだった。 亜美の着替え一式はまことの衣装ケースの中にあるのだから、こんな雨の中無理に帰るのは危ないからダメだと言った。 なかなか首を縦に振ろうとしない亜美に「じゃあ、あたしが家まで送って行くよ」と言うとすごく困った顔をされた。 「まこちゃん、その言い方はとってもずるいわ」 と、言われて内心でごめんと謝った。 「亜美ちゃんが素直に泊まって行くって言ってくれればいいだけなんだけどなぁ?」 「でも、突然お泊りなんて…」 「はじめてなわけじゃないんだからいいじゃないか?」 「それは、そうなんだけど……っ!」 「夕飯は冷蔵庫にある材料で出来るものにするから心配いらないよ?」 亜美の言おうとした事を悟り――と言うよりは以前そう言って帰られてしまったことがあったため――そう言うと亜美が言葉に詰まった。 「……お世話になります」 ペコリと頭を下げられたまことは亜美に気付かれないように小さく笑った。 「んぅ…っ」 長い睫毛が震えゆっくりと亜美の瞳が開く。 「おはよう、亜美ちゃん」 「……う?」 いつもなら「おはよう」と返ってくるはずなのに、今日の亜美はどこかぼんやりしたような、惚けたような反応でまことは一人で納得する。 (寝ぼけてる) 普段寝起きのいい亜美が、寝ぼける事があるのを知ったのは二人で三度目の朝を迎えた時だった。 「おーい?亜美ちゃーん?朝だよー?」 寝ぼけ眼でぼんやりしている亜美の髪を指先でくるくるともてあそぶ。 「うぅっ…やぁっ」 幼い子どものような反応をされて、それを楽しいと思ってしまう。 「亜―美ちゃん?」 「んーっ」 いやいやと頭を振って碧い髪が布団に潜り込む。 (可愛いなぁ) その様子にまことはくすりと笑う。 (雨、止んだみたいだ…) うっすらとカーテンの隙間の光の加減と聞こえる鳥の声で外が雨ではないことを知る。 青空が見える天気だったら亜美ちゃんと近場におでかけしようかなぁ…なんて考えながらそっと布団をめくり亜美を見ると―― 「ねてる…」 すぅっと小さな寝息を立てて気持ち良さそうにひとり夢の世界へと旅立っていた。 あどけない亜美の寝顔にまことは微笑む。 今日の亜美の寝ぼけモードはこれまでまことが何度か見た中で一番をいくものだという事がわかった。 起きたら亜美に「すーっごい寝ぼけてたよ?」と笑いながら言ってみようと思う。 きっと真っ赤になって慌てる彼女を見られるに違いない。 そう考えながらまことは亜美の寝息に誘われるように、ゆっくりと微睡んでいった。 |