▼さくらんぼ 【大亜美】 「亜美、さくらんぼは好きですか?」 「え?はい。好きです」 大気が亜美にさくらんぼの入った容器を差し出す。 「貰い物なんですが、どうぞ」 「ありがとうございます。いただきます」 亜美が一粒口に含む。 「おいしいです」 と言って笑顔を見せる亜美に大気が 「それは良かったです」 と微笑む。 亜美がもう一粒口に含んだのをみた大気が「亜美」と名前を呼ぶと彼女が目線を上げる。 「愛野さんからお聞きしたんですがさくらんぼの茎でこよりを作れるとキスがうまいらしいですね?」 「ふぇ?」 亜美が目を丸くするのを見た大気がふっと笑って 亜美がくわえていたさくらんぼの茎を引っ張る。 プチッと音がして大気がその茎を口に含む。 「っ!?///」 突然の事に真っ赤になる亜美をよそに大気があっさりとこよりを作りあげる。 「これで本当にキスがうまいかわかるんですか?」 怪訝そうな大気に亜美が 「知りません///」 と顔を逸らせると 「亜美はできますか?」 と聞いた。 「え?」 亜美が驚いたように聞き返して少し考える。 「えっ…と、やってみた事がないのでわからないです」 「では、やってみてください?」 「えっ?」 大気がふっと笑って亜美の唇にさくらんぼを押し当てる。 「っ///」 「ほら?あーんしてください?」 優しく言われた亜美がそっと口を開く。 もぐもぐとさくらんぼを食べて、種を出してから亜美は茎を口に含む。 頭の中で立てた理論なら可能なはずで──はずだった。 「ダメでした…」 しゅんと落ち込む亜美の頭をよしよしと撫でながら大気がくすくすと笑う。 「うぅっ…大気さんはすごく簡単にできたのに」 「亜美」 「はい?」 「キス、うまいですか?」 「…誰が、ですか?」 「私がです」 「えぇっ///」 「それとも亜美は私以外の人とキスした事があるんですか?」 「えぇっ///ありません///」 「ほぉ?」 「そ、そもそもうまいかどうかなんてどうやってわかるんですか///」 「される側の感覚じゃないですか?」 大気がさらりと言う。 「そうなんですか?」 「さぁ?でも自分でキスが上手いとか豪語するのもおかしいでしょう?」 「それは…確かにそうかもしれませんね…」 納得したような亜美の顎に大気の長い指が触れる。 「っ!?」 「なので、亜美の判断をください」 大気がそっと亜美の唇をふさいだ。 【星うさ】 「あ、さくらんぼ♪どうしたの?」 「社長がくれた。好きなだけ食っていいぞ」 「わーい♪いっただきまぁーっす♪」 もぐもぐとさくらんぼを食べるうさぎを見ていた星野もひとつ食べて 「なぁ、そーいやさ」 と口を開くと、うさぎがリスようにほっぺたを膨らませて振り返る。 「ぶっ…おまっ、そんなに一気に食わなくてもとらねーよ!」 「らっへ、おいひいんらもん」 星野はうさぎを見てお腹を抱えて笑う。 「笑すぎっ!」 「だって…くくくっ…ハムスターかよ」 「しっつれーね!」 「わりぃわりぃ」 まったく悪いと思ってない口調で謝る星野をうさぎが睨む。 「で?なんなのよ?」 「なにが?」 「さっき何か言いかけてたでしょ?」 「あぁ、さくらんぼの茎でこよりが作れたらキスがうまいって話は本当なのか?」 「……ほぇ?」 きょとんとするうさぎに星野が怪訝そうな顔を見せる。 「なんだ?違うのか?」 星野が茎を口に入れてもごもごする。 うさぎもなんとなく茎を口に入れてもごもごと葛藤する。 「お、できた。なんだよ簡単じゃねーか」 星野があっさりこよりを作ってみせる一方でうさぎがもごもごとこよりを作るのに必死になる。 星野はその間にもこよりをふたつみっつと増やしていく。 「もーっ!むりーっ!」 「らーくしょーっ♪」 「なんで作れるの?」 「知らねーよ」 「ーっ、星野ってばやらしいんだから!」 「なんでだよ!」 「こよりそんなにたくさん作ってるじゃない」 「やってみたらできたんだよ…」 「あたしはできなかった…」 「おだんご不器用だからじゃねーの?」 「うっ…」 「まぁいいじゃねーか」 「どこがよ?」 「俺がキスうまいって事だろ?」 「えーっ?」 「なんだよ?下手だって言いたいのか?」 「ちっ、違うわよ///」 「おい///そこで赤くなるなよ…俺まで恥ずかしくなっちまうだろ///」 「うぅっ///星野のバカ///」 「悪かったな///」 お互い真っ赤になりながらも自然と唇が重なる。 【夜美奈】 「ねぇ夜天君は口の中でさくらんぼの茎でこよりって作れる?」 美奈子が実のなくなったさくらんぼの茎をくるくると回しながら夜天に声をかける。 「はぁ?何それ?それが出来てなんか得するわけ?」 「作れる人はキスがうまいらしいわよ」 「…はっ…くっだらない」 美奈子の言葉を鼻で笑う。 「なぁーんだ、夜天君たらできないんだぁ?」 美奈子がにひひと笑って手にしていたさくらんぼの茎を口に入れもごもごと動かす。 「でーきたっ♪どーよ?」 と、自慢気にこよりを見せられた夜天が少しムッとしたのを美奈子は感じた。 夜天はやる気がなさそうにみえて、実はかなりの負けず嫌いだ。 「全然簡単じゃん…」 夜天がつまらなさそうに作ったこよりを吐き出す。 「こんなのでキスがうまいとか絶対嘘だろ…」 「どうしてそう思うの?」 「簡単すぎる」 「そう?」 「美奈だって簡単にやったでしょ?」 「まぁ、あたしは愛の女神だし」 「それ絶対に関係ないよね…」 夜天がふぅと息をはく。 「ねぇ、美奈」 「なぁに…んっ!」 顔を上げた美奈子の唇を素早く塞ぎ舌を滑りこませる。 「はぁ…っ」 「どう?」 「何がっ///」 「僕のキス、うまい?」 そう言ってにっと笑う夜天に美奈子は口をパクパクさせる。 「夜天君のえっち!」 「ぷっ…美奈真っ赤」 「夜天君のせいでしょぉぉっ!」 |