▼手料理 【大亜美】 「おいしいです」 亜美はハッシュドビーフを掬ったスプーンを握りしめ内心で落ち込む。 大気は料理すらも完璧にこなせてしまうのだから自分の出る幕はない。 「それは良かったです」 と優しく微笑む大気に亜美は用件を切り出せないでいた。 大気に手料理を食べてもらうなんて…無理だ。 お店で出してもなんら問題ないようなハッシュドビーフをあっさりと作ってしまう大気。 まこと直伝のレシピを教わったとは言え、作るのが自分となると味に自信がまったく持てない。 無理。うん。やめよう。そう心に決めた時だった。 「今度は亜美が作ってください」 「……え?」 瞬きをふたつ。 「木野さんから聞きましたよ。お料理を教わってるんでしょう?」 「あ、あの…でも、まだ全然、まこちゃんみたいに上手にできないですし、大気さんのお料理みたいにすごいものはできない、ので…っ」 「亜美が作ってくれるのなら、なんでも構わないんですよ?」 「え?」 大気は優しく微笑む。 「亜美が得意なサンドイッチでもいいんです」 「でも、そんなのじゃ…」 大気にもまことにも、悪い。 「大切なのは誰を想って作るかですよ?」 まことと同じ事を言われ亜美はハッとする。 「……っ、がんばり、ます」 「はい。楽しみにしています」 そう言って笑った大気は本当に嬉しそうだった。 【星うさ】 「さぁ♪召し上がれ♪」 と笑顔で差し出されたお皿を見て星野は固まる。 そこには真っ黒の物体が… 「…あの…おだんご…」 「なぁに?」 「これ…は?」 「玉子焼き」 「じゃあこっちのは?」 「たこさんウインナー♪」 「そっかぁ、玉子焼きとたこさんウインナーかぁ……いただきます」 うさぎに不安そうながらも期待をこめた眼差しで見つめられた星野は玉子焼きもどきを口に運ぶと、ジャリという食感を無視して咀嚼して嚥下する。 「ーっ、う、うまいぜっ」 アイドルスマイル全開で言うと、うさぎが怪訝そうな顔をして 「星野の嘘つきーっ!」 と部屋を飛び出していった。 「どーしろって言うんだぁぁぁっ!」 言いながらたこさんウインナーもどきを口に放り込むとうさぎをおいかける。 「おだんご!」 「あんなの美味しいわけないでしょ!うそつき!」 「違うだろ!おだんごが俺のために作ってくれたからうまいんだろっ!」 「っ!な、なに…よ。バカッ///」 【夜美奈】 「あぁっ…また…」 美奈子はキッチンでフライパンの上にのった黒い物体を見てぼそりと呟くとお皿にうつす。 そこには黒いタワーが出来上がっていた。 「今度こそっ!」 「ねぇ…」 「ひゃぁっ!や、夜天君!?来ちゃダメって」 「フライパンについたコゲ取れば?あと少しフライパン冷ませば?」 夜天に言われたようにフライパンを一度綺麗にしてからまことが教えてくれた手順に従って作業をすすめる。 「できた…」 きつね色のホットケーキが完成した。 「失敗作の方が多いけどね」 夜天が黒いタワーを見つめてくすりと笑う。 「何回やっても焦げちゃったの!」 「ちゃんとできて良かったね」 「うん」 「ところで、この失敗作はどうするの?」 「うっ…」 美奈子は一瞬考えてから 「あたしがちゃんと食べる」 と言って、キレイなホットケーキを夜天に差し出す。 「美奈」 「なぁに?」 「これ、半分こしよう」 「え?でも」 「それ、一人じゃ食べきれないでしょ?僕も手伝うよ」 「ありがと」 |