Fruits Basket | ナノ

▼ぎゅっ

亜美はこっそりと隣に立って星空を見上げる大気を見つめる。
整った顔立ちにスッとした鼻梁、アメジストの瞳。
トクンと鼓動が音を立てる。
原因は大気が隣にいるから───だけではない。

今日の勉強会で美奈子が“あんな事”を言うから……



「ねぇねぇ、亜美ちゃん知ってる?」
まことお手製のパウンドケーキを食べながら休憩していた時のこと。
美奈子がおもむろに口を開いたのがきっかけだった。
「何を?」
「自分の身長足す22センチは抱きつきやすい男性の身長なんだって!」
「はい?」
亜美は首を傾げ目をしばたたかせる。

「あー、なんかそんなのあったね」
まことが言いながら紅茶を飲む。
「んーと、22って事は〜…あたしと美奈子ちゃんは161だから……183だと抱きつきやすいってこと?」
「でも、星野君も夜天君もそんなにないよね?夜天君あたしとあんまり変わんないんじゃないかな?」
「まこちゃん何センチ?」
「……174…」
「夜天君と同じだわ」
「うるさいな」
「ちなみに浅沼君は?」
「同じ……だよ、あれ?でも」
「でも?」
「いや、うん…ちょっと伸びてるかも…こないだ目線が上だった」
それを聞いた美奈子がにやぁと笑い、照れ隠しでまことが美奈子の背中をバシバシと叩いた。

「ねぇ、レイちゃん、雄一郎さんて背高いよね?」
「え?あぁ、178とか言ってたわよ?確か」
「レイちゃんは?」
「あたしは163」
「15かぁ…惜しい」
「惜しいかしら?うさぎと星野君は?」
「んーと…確か星野は177とか言ってたから、16?惜しい」
「惜しいの?」
「22じゃなきゃ意味ないわ!!」
レイとうさぎの会話に美奈子が割って入る。

「あたしがなんの結果もなくこの話をするわけがないのよ!亜美ちゃん!」
ビシィっと亜美を指さして言った。
「あたし?」
「そうっ!ここまでの話であたし達は該当しないことは分かったでしょ?」
「えぇ、そうね。で?」
「亜美ちゃん、大気さんて身長何センチか知ってる?」
「えーっと、確か180…だったはずだけれど……」
「はい、うさぎちゃん180から22を引くと?」
「158?あっ!」
うさぎが何かに気付いたように亜美を見つめた。
まこととレイも亜美を見つめてから、感心したような呆れたような眼差しで美奈子を見た。
「亜美ちゃんて158センチだったよね?」
「っ/// え?/// あのっ///」
亜美もようやく意味を理解したのか真っ赤になって慌てる。
「こ、根拠とか、あるわけじゃないんでしょ?///」
「根拠なんて、亜美ちゃんが大気さんに抱きつきたくなるかどうかよ!」
「えぇっ///」
「つ・ま・り!大気さんに抱きつけば分かるわよ…ね?」
美奈子は妙にいい笑顔で微笑んだ。



(美奈子ちゃんがあんな事言うから……変に意識しちゃうじゃない…)
「───美、亜美?」
「え?」
至近距離で聞こえた声にハッとすると、すぐそばに大気の顔があった。
心配そうに覗きこまれてドキドキと心臓が早鐘を打つ。
「あ…っ」
「どうしました?」
「い、いえっ///」
「そうですか?さっきから何度も呼んだんですが…何か考え事ですか?」
「そういうわけじゃ…」
『大気さんに抱きつけば分かるわよ…ね?』
美奈子の言葉が頭の中をぐるぐると回る。
「ないんですけど……」

そう言って俯いた亜美を心配そうに見つめる。
「何か亜美を傷付ける事をしてしまいましたか?」
大気の言葉に亜美はハッとして、ふるふると頭を横にふる。
「そんな事ないです…っ」
大気を見上げると、優しいアメジストの瞳と視線がぶつかる。
「っ///」
「何かありましたか?」
優しい声音でそう聞かれた亜美は意を決して、口を開く。
「っ…あの/// 笑わないで、くださいね?」
「はい」
大気が頷いたのを見た亜美は勉強会での出来事を話す。

「……と、言うわけなんです、けど///」
「…………」
「大気、さん?」
亜美がおずおずと大気を見上げると少し驚いたような表情で自分を見つめていた。
「あ、あのっ///」
「───ふっ」
「なっ///」
口元を手で押さえて、クスクスと笑い始めた大気に亜美はますます真っ赤になる。
「わ、笑わないでって言ったじゃないですか///」
「す、すみませ、っは、あはははは」
大気は声をあげてひとしきり笑う。
「大気さん…笑いすぎです…」
笑い終わったらしい大気に亜美はムッとした表情を向ける。
「すみません。可愛い事を言うので、つい」
ふっと笑顔を見せた大気にそっと髪をなでられる。
「それで?」
「えっ?」
「抱きつきたくなりましたか?」
「〜っ//////」
いつもの大人びた笑顔ではなく、自分だけしか知らない年相応の少年のような笑顔で言われた亜美は耳まで真っ赤になる。

バクバクとうるさいくらいに心臓の音が自分の身体の中をはねる音が聞こえてしまいそうで、亜美は大気から一歩身を引き視線を逸らせる。
「亜美」
「はいっ///」
「亜美がさっき言っていた理屈でいくと“男性は自分の身長から22を引いた女性を抱きしめやすい”と言うことになりますよね?」
「……はい?」
亜美がきょとんと大気を見つめると、それはもう清々しいほどに爽やかな笑顔の彼が目の前にいる。

(え?なに?どういう事?そう…なの?美奈子ちゃんはそんな事は言ってなかったけれど…えーっと…)
亜美がグルグルと考えていると、大気が素早く距離を詰めていて、楽しそうに彼女を見つめている。
「亜美」
「はいっ?」
少し驚いた亜美の目の前で大気は腕をひらく。

「おいで?」
優しいアメジストの瞳と甘やかすような声に誘われるように、亜美がぎゅっと大気に抱きつくと、ふわりと包み込むように抱きしめられる。
「〜っ///」
大好きな大気の匂いとぬくもりと、すぐ近くで聞こえる鼓動の音に、ドキドキして───それ以上に安心する。

大気は腕の中にすっぽりおさまった亜美の碧い髪を見つめる。
そう言えば前にドラマでこんな感じのシーンを撮った事と、その時に共演した女優にしつこく食事に誘われた事を思い出してしまい、思わず身を固くする。
「大気、さん?」
それに気付いたらしい亜美に心配そうな瞳で、上目遣いに見上げられてどきりとする。

その時に共演した女優が休憩の合間に“わざと”つまづいた風を装って自分に抱きつき「ごめんなさい、私ったらホントにドジで〜」などと言いながら、甘えたような上目遣いで見つめられた時は、当然どきりなんてするはずがなくて、内心で苛立った事を思い出す。
いつだって、行動や仕種ひとつで自分をこんなにも翻弄できるのは亜美だけだ。

(亜美といながら、他の女性の事を思い出すなんて、最低ですね…私は)
そっと碧い髪を撫でると、恥ずかしそうにしながらもはにかんだように微笑む亜美に愛しさがこみ上げる。
「亜美」
「はい///」
「抱きついた感想は?」
「えっと、あの…」
「うん?」
「どきどき、します///」
瞳を潤ませながらそんな事を言う亜美に大気も思わず赤面する。
「私も、ですよ」
「え?」
「私がこんなにドキドキするのは、亜美だけですよ」
そういう大気の鼓動がさっきより早いことを感じとった亜美がますます赤くなる。
そんな反応が可愛くて、つい意地悪をしたくなる。
「亜美は───」
「え?」
「私と同じ身長の人だと、私じゃなくても抱きつきたくなりますか?」
「なりません!大気さんじゃなきゃ…っ!」
「それは良かったです」
「っ/// 大気さん意地悪です」
「すみません。でもすごく嬉しいです」
そう言って微笑んだ大気が本当に嬉しそうで、亜美もつられるように微笑み返す。
「私も亜美だから抱きしめたいです」
大気はぎゅっと抱きしめる力を強める。
「亜美じゃなきゃ、意味がないんです」
「あたしも、です///」

頬を染めてふわりと笑う亜美の華奢な身体を大気はしっかりと抱きしめた。

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Category:セーラームーン

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