2010 | ナノ








冬はそこまで嫌いじゃない。梅雨のように湿気で髪がいつも以上にうねることはないし、夏みてぇに暑い思いをしなくて済む。その反対で冬は寒い思いをするわけだが、天然湯たんぽが隣で寝ている限り、暖房器具はいらないっていうわけ。何故だか目が覚めた夜中、寝直そうにも寝られない。仕方がないので湯たんぽ……じゃない、規則的な寝息を立てて夢の世界に旅立っている彼女の観察。

……気持ち良さそうな顔しやがって。むにゃむにゃと蠢く唇はカサカサに荒れていた。そういえば、リップクリームを無くしたと嘆いていたなァ。それを彼女は無意識(当たり前だけど)に前歯で下唇を噛み、荒れた皮を器用に捲っている。おうおう、ほんと上手いことやりやがって。




「痛っ……」




ポツリと吐き出した言葉に身体が一瞬跳ね上がったがどうやら寝言のようだった。夢の中では怪我をしたのだろうか。……それとも捲った部分を無理矢理剥がしたからだろうか。

とりあえず言えることは彼女の唇から流れ出した血を止めてやらねぇと、そう考え、指を近付けたのだがすぐに引っ込めた。自分でもわかっている、邪な想いが芽生えてきたと。……顔を近付ける。唇同士の距離はミリメートル単位。

ペロリと舌で血を拭う。鉄の匂いが鼻を通った。……嫌いではない。少なくとも昔斬って斬って斬りまくった天人どもの血よりも好きだ。ぷくりと再び丸く浮かぶ血を舐める。今なら吸血鬼の気持ちがわかるかもしれねぇ。

ん、と彼女が唸る。あーやべぇ、今度こそ起きた?苦しい顔をしているのがはっきりと見えたが起きる兆しはない。おうおう、あぶねぇなぁ。早く目ぇ覚まさねぇと寝込み襲われっぞ。まぁ襲うのは後にも先にも俺だけど。

あーやべぇ。おうおう。腹減った。飯的な意味じゃなく性的な意味で。いや今日くらいは我慢してやらァ。スヤスヤと眠るお前の顔を見てても飽きねぇし。

血はもう出ねぇけど、朝まで俺はリップクリームの代わりになってやるからよ。今度は舐めるのではなく口付けをした。これ以上乾燥しませんように。









101217