“公衆電話”
携帯電話に表示された文字を見て、私は飛び上がって通話ボタンを押す。
「も、もしもし?」
『あー…名前?銀さんだけど』
「うん、どしたの?」
予想通り、公衆電話から掛けてきた相手は銀ちゃんだった。
『いや特に用はねぇんだけどよ』
「うん?」
『家でお前に電話したら神楽たちが冷やかしてくるからうっせぇしよ、いきなり悪いな』
その光景が目に浮かんで苦笑を溢した。それがよくあることでいつからか銀ちゃんは公衆電話で掛けるようになったんだっけ。携帯を持てばいいのに、と思う。
「ううん、大丈夫」
『でさ、暇?』
どきっとして私は部屋に散らばった服を纏めて洗濯機に突っ込む。ゴミは落ちてないかと見直してから銀ちゃんに慌てて返事をする。
「う、うん、暇だよ。家来る?」
『その前にちょっとでかけねぇ?』
「何処に行くの?」
『折角だから携帯買おうと思ってよ。俺よくわからねぇから名前に付いてきてもらおっかなーみたいな?』
「あ、買うんだ」
『おう。メールっての?してみてぇしな、名前と。じゃあ、いつもの喫茶店で待ってっからなー』
ガチャリと向こうの受話器が置かれて、機械音が聞こえてから私も電話を切った。
「買うんだ」
もう一度そう言ってから私はまた慌てて用意をする。
メールフォルダの一番上に銀ちゃんのフォルダを作ってから家を出よう。
(ねぇ、携帯の機種お揃いにしよっ)
(んなもん、恥ずかしくてやれっか)
(でもこれ0円機種だって)
(よしそれにするわ)
100912