熱い。
なにもない荒れ果てた地に日差しだけはいっちょまえに照らして地面からは炎のように揺らめきが立ち上っていた。不規則な上昇気流が、気持ち悪い。
……そういえば、俺は何をやっていたんだ。ああ、殺さねぇと。殺らなきゃ殺られるんだ。
あの人を消したこの世界が、憎い。
夜叉になろうが地獄に堕ちようが、これは俺の復讐だ。陽炎の先に、刀を握り直して俺は走る。
「うおおおぉぉおぉおお!!!!!!」
だけど、先生。俺は夜叉になりきれなかった。無理だったんだ、俺には。でも先生?
先生ならそれでいいって言ってくれるような気がして。そう言って、頭を撫でてくれるのが先生だった。
「大丈夫?」
「……名前?」
頭の天辺が暖かくて、うっすらと瞼を開けると名前が居た。あれ、今日仕事じゃなかったっけ、こいつ。
名前の手がそっと離れる。……こいつが頭を撫でていたのか。
「あ、起きちゃダメ」
「……!」
なんでだよ、言いかけた言葉は喉に走った激痛で言えなかった。
「喉痛い?扁桃腺腫れてるってお医者さんが言ってた。それから無理に喋らなくていいからね」
状況が全く掴めない。名前は優しく笑い、説明してくれた。俺の断片的な記憶が繋がれていく。
俺は風邪を引いたらしい。というか元々兆候はあったのだが、寝れば治るだろうという精神でいたら、昨日雨に打たれて風呂にも入らずに寝たからだと内心思った。
扁桃腺の弱い俺は、そこから熱を持ち、どうやら高熱に浮かされたまま、新八に発見され、新八が慌てて名前を呼び、名前は仕事を休むハメになったと笑っていた。
「……わ、るいな」
「いーよ、緊急事態だし。大事に至らなくてよかった」
「……」
「それに魘されてたみたいだから」
「……」
もう大丈夫だよ、と名前は手のひらを俺の前髪に乗せた。濡れたタオル越しでも何故だか手の温もりが伝わって不思議と不快感は感じない。
むしろ気持ち良くて、俺は名前の手の上に自分の手を乗せ眠りに就いた。
夢の続きを見た。同じ陽炎の先には天人じゃなく名前が居た。
俺の今やるべきことは、いや望むことは、名前と一緒に居てぇ。
陽炎に飲み込まれないうちに、迎えに行くから。
(『行くな』、か。私は何処にも居なくならないのに。銀ちゃんの馬鹿)
100903