や ば い 。
なにがやばいって言うと、夏休みの課題の溜まりようが。ああ、遊び過ぎた!
「おいおい、名前ちゃん?受験生の自覚あるわけ?」
「全くない!だって推薦入試だもん!そんなことより宿題手伝ってってば!」
「へいへい」
日付が変わって8月31日。学校は明日!宿題の提出も明日。宿題たちはうっすらと埃を被っていることで一切手を付けなかったことが伺える。
「大体さぁ遊びすぎなんだよ」
「わかってるってば。だって高校最後なんだから遊ばせてよ、先生これよろしくね」
仕方なく私は宿題を持って、担任であり一応、秘密の恋人である坂田銀八の家に助けを求めた。狭い家の更に狭いテーブルの上を占領し、私は数学に手をつける。先生には担当教科の国語を渡す。
「これ俺が出したやつじゃん」
「うん、知ってる。じゃあ提出したことにしといてよ」
弱ったな、と頭をかいて先生は言うけれど、私は目もくれずシャーペンを握ったまま問題を見つめていた。
「あと英語と。てかなんでこんなに宿題多いわけ?去年とか少なかったじゃん」
「あー、しらねぇよ。いいねー学生は夏休みがあって」
「なに拗ねてんの?」
「別に?名前ちゃんが夏休みの間構ってくれなかったとか思ってないよ」
うん、思ってるよね。言っちゃったよね。なにこの教師兼恋人。超めんどくさい。
「めんどくさいとか思ったろ?」
「い、いやなにも。早く手ぇ動かしてっ」
「お前、ほんとに大学生になれんのかよ」
「しらないしらなーい。聞こえなーい」
カリカリ、と肘付いて計算を解いていく。向かい側に座る先生はぶつぶつ呟きながらも英語の課題をやってくれている。……あとでいちご牛乳とプリン買ってあげよう。
「あー、だめ、先生の集中力切れてきたわ」
……やっぱ前言撤回。
「先生に集中力あったんですか。へー、初耳です」
「おいぃぃぃ、じゃなきゃ俺、教壇に立てねぇから!」
「はいはい。真面目に授業しないくせに何を言うか」
「名前ちゃーん」
「なに、忙しいんだけど」
はぁ、と息を吐いて私の隣に移動した先生に顔を向ける。
「、っ、ん……!」
「……つーか、お前さ、推薦なんて蹴って俺の嫁になれって」
先生の不意打ちキスに驚いた私はそのまま先生と一緒に床に倒れる。さりげに腰に手を回してくるし離してくれる気ないってこれ。
「ば、ばかっ、離してよ」
「無理っぽい」
「ちょ、宿題」
「だーめ。返事聞くまで離さねぇよ」
なんだそれ。ムードもへったくれもないと思うんだけど、今のって。ストレートなのは褒めてあげよう。
「……構ってあげなかったのほんと悪いと思ってるからさー。ね、銀八」
ぴくっと先生が反応する。滅多に呼ぶことのない、名前を呼んだからだ。とりあえず返事云々より宿題をなんとかしたい。それが優先事項。
「だから……!って、え」
視点が一瞬で変わって、気が付けば私は先生を見上げてた。……もしかしても、もしかしなくても、これってマズイ状況じゃない?
「あー、ごめん無理。不意打ちで呼ぶのやめて」
「じゃあ不意打ちでキスをするのもやめてよ」
先生が眼鏡を外したのを皮切りに、私たちの影は重なりあった。
8月31日の悲劇。宿題は終わらない。
(あと1日あるっつの)
(……土方君や妙たちを呼ぼう!)
(おま、他の男の手なんざ借りなくても俺がやってやるって)
(男に二言はないよね?)
100831