目が腫れて、外にも出歩けないから初めて仕事を休んだ。今月は皆勤手当くれないなぁ、なんてわけのわからないことを思いながら布団にくるまる1日だった。
……昨日、大好きな人と、別れた。
原因は昨日まで恋人だった銀ちゃん。仕事帰りに街でたまたま見つけて、銀ちゃんに話掛けようとしなければよかった。
依頼人らしい女性とキスをしたのをこの目で捉えてしまった。
ごとり。身体に重石が乗っかった気がして動けなかった。
銀ちゃんがゆっくりこっちを見て、ひどく驚いた顔をした。そしてその女の人を振り切り私の腕を掴んで、気が付けば万事屋に居た私は半狂乱になり銀ちゃんを責めた。今まで我慢してたつもりだった。
銀ちゃんがすごく好きで、嫌われたくなかった。寂しいとか、言えなかった。
『どうして私が居るのに他の人のところに行くの!』
と言ってしまった。ヒステリックに叫ぶ私を銀ちゃんは疲れた表情を見せて謝るだけだった。
『だから、あれはあの依頼人が勝手に…』
なんて言うから、私は自分の心が冷えつくのがわかって勢いで「さようなら」を言い銀ちゃんから貰った指輪を投げ付けて万事屋から帰ってきた。
時間が経つにつれて、私は冷静になり、銀ちゃんは嘘をついてないんじゃないかと、そう思い込んだら、更に泣きたくなって、気が付けば朝だった。
でも、銀ちゃんは追いかけてきてくれなかった。…うざいと思われたんだろう。自分から勝手にさよならしといてこんなに恋しいなんて卑怯。涙が止まらない。
――ガチャ
「…!」
微かに聞こえてきたのは扉が開く音。鍵はちゃんと閉めたはずだし、合鍵は……銀ちゃんが持ってるけど…来るわけがない。
泥棒か何かだろうか?
物音立てずにベッドから降りて、武器か何かを探す。寝室にはめぼしいものは置いていない。部屋を出たいけど足音が近付いてくる気配がして、隠れるしか術はないとか思いながらも身体はそうはしなかった。少し開いた扉から向こう側を伺ってしまった。
「あ」
つい発してしまった声に気付いた侵入者はガタンっと音を鳴らして、私が居る寝室の扉を見た。小さい隙間から見える紅い目、銀色の髪。
紛れもなく、昨日別れた恋人。
私は泥棒じゃなくてホッとして、床にへたりこんだ。銀ちゃんは慌てて扉を全開にした。
「おい、名前?」
「泥棒でも入ったのかと思った…」
「……わりぃ。仕事だと思ってたからさ」
何の用で来たんだろう。この部屋に銀ちゃんの物なんてあまりないのに。
顔を上げたら、涙がこぼれ落ちそうだから、私はそのままの体勢で、あくまで普通に、どうかしたの?と問い掛けた。
「……ごめん。……名前を愛してんだよ。だから昨日、浮気を疑われて、すっげー腹立った。だけど、疑われても仕方ねぇことやった」
「銀ちゃん…?」
「ほんとごめんな。……追いかけたかったけど、これを投げられたからにはもう許してくれないんだろうって」
「あ…」
銀ちゃんの言葉に頭を上げれば、銀ちゃんは握った手のひらを開いた。鈍く銀色に光る指輪。……私が昨日投げたものだった。
「ごめ…ごめん、銀ちゃん」
カラン、と指輪が転がるのも気にせず私は銀ちゃんに飛び付いた。傷付いたのは私だけじゃない。銀ちゃんも傷付いた。私の、せいだ。
泣く私を銀ちゃんはあやそうと頭を撫でてくれる。余計、涙が止まらなくなるよ。
「名前」
「ん…」
「やり直さねェ?もっかいさ」
「うん…!」
涙が止まらない
(なんで家に来たの?)
(名前が帰ってきたら土下座で謝ろうと思って)
title:)たとえば僕が
100827