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惚れ薬の対価

「何の用だ、手紙は暖炉の燃料にするからさっさと置いて帰るがいい」
「いや、今日は別の要件で来た」
「要件は何だ」
「惚れ薬を作って欲しい」
「は?」
「いや、俺の仕事仲間、というか立場的には上司にあたる奴……ああいや、俺の友人と言うべきか。とにかく、そいつに依頼を頼まれたんだが…」
「…フン、予算次第だな」
「ここまでなら出せるそうだ」
「ほう。……ならばこの額はどうだ?ああ、悪いが高めに貰うぞ」
「範囲内だな。問題ない」
「ただし惚れ薬の効果など永遠に続くものではないからな…せいぜい三日持てば良い方だ」
「十分すぎるな」
「一つ聞きたいが……今後定期的に作らせて使用する、だなんて馬鹿な事は言わないだろうな?」
「さすがにそれは俺が全力で止める」
「なら構わん。…さて、早速作業に取り掛かるか……惚れ薬ならば数時間程度で完成すると思うが、その間お前はどうするつもりだ?」
「そうだな……お、そこの本はラゼ・リーデルの著書か?」
「ほう、結構マイナーな作家だが知っているのか」
「ああ。だが俺が見てきたものは数百年前のものなだけあってな…どれもページが抜け落ちていたり汚れていて文字が読めなくなっていたりで、残念ながら完全に読めたものは数冊しかない」
「わらわの空間にお前を放置するのは癪だが…今回は特別だ、出来るまでの間読んでいればいい。……今向こうの部屋に茶と茶菓子を用意した、時間まで好きにしろ」
「感謝する」
「ああ。完成次第呼びに行く、夢中になるのもいいが、夢中になりすぎるなよ」


(数時間後)


「完成したぞ」
「………」
「おい、完成したぞ」
「…………」
「……完成したと何度言わせる気だ?」
「…ああ、すまない。夢中になっていた」
「ふん…まあいい、薬の説明をするぞ」
「メモをとった方がいいか?」
「いや、口頭で十分だ。……まず初めに。これを全て飲ませれば完全な効力を、浴びせれば半分の効力を発揮する。あとは一般的な惚れ薬と同じで、効果を受けてから見た相手に惚れるというものになるな。次に…こればかりは魔力は一切関係せず個人差となってしまうんだが、こういう系統の薬に対する耐性が強いと効き目も薄れてしまう。まあその逆もあるがな」
「……まあ、飲ませた方がいいと言う事か」
「そうだ。だが他の物と混ぜたら効果はなくなるうえに、少しでも残せば効力は落ちる」
「面倒だな」
「惚れ薬はそういうものだ、諦めろ」
「まあ俺が使うわけではないからな…あいつならどうにかするだろう」
「ふ…ああ、肝心なことを言い忘れるところだったな。対象の気持ちを薬で惑わせても記憶には残るからな」
「メリットばかりではないという事か」
「デメリットがなければ悪用し放題になるからな」
「まあ、判断はあいつに任せるとする。依頼金の方は前渡しで…これがその分だ」
「………きっちり受け取った」
「今回は色々と感謝する」
「依頼ならばわらわはしっかり受けるぞ。……ああ、そうだ。ヴェルディスが用があるとか言っていたな。少し待っていろ、すぐ連れてくる」
「ヴェルディスが?」
「仕事に関しての事だそうだ」
「珍しいな」
「同感だ。それと、仕事をしたいという話ではなさそうだとだけ言っておいてやろう。――ああ、薬の扱いには気をつけろ、香りは平気だが液体には気をつけないと…面倒になるからな」
「ああ」


(香り、と言っていたな…やはりこういった薬は甘い香りがするものなんだろうか?………ほう、そんなに香りは強くないんだな)
「戻ったぞ」
「う、わ―――」
「!!?」
「不味いっ…!」

「アッツェリテルトっ!」
「――やっば、ヴェル様やらかしちゃった!?」
「ばっ、隠れるな!」


どんな香りか気になって瓶の蓋を開けた瞬間アルトとヴェルディス登場…が、上司の上から出現。
アルトは上司の目の前に着地するもヴェルディスが上司の上に落ちてしまう。
上司は避けようとするもよけられずに後ろに倒れる、それと同時に瓶が放られる。
瞬時にアルトが弧を描く瓶に手を伸ばすが間に合わず、それどころか液体を軽く浴びてしまう。
すぐに立ち上がった上司とヴェルディスだが、ヴェルディスが理由はわからないがとにかくマズい事をやらかしたと瞬時に理解し、慌てて上司の影に隠れてしまう。
そのせいで、アルトは上司の事を見てしまった。


「―――おい、死神上司」
「(ああ目が合ってしまった。一先ずは何もない事を祈るばかりだな)…なんだ」
「ラゼ・リーデルの著書はそこにあったもの以外にもある。わらわのコレクション、お前には特別に見せてやろう」
「え、アルトってば珍しい」
「そうか?好きなものを語れる相手が居るということはいいことだろう?」
「う、ん?いやまあ、そうだけどさぁ…」
「あー…良いのか?」
「わらわが良いと言っているんだ、黙って来ればいい」

(ちょっと上司、やっぱ本魔女変だよ!どういう事?あの水なに!?)
(…惚れ薬だ)
(惚れっ……なんでそんなもん作らせたのさ)
(ルゼレスに依頼の仲介を頼まれてな…)
(あの女好き上司!?ああもう今度ぶっ飛ばす!…で、今これどうすんのさ!?)
(どうにかして俺は帰る、そして効力が切れるまでヴェルディスが見張る。…それで良いな?)
(わかった、協力するよ)

「どうした、二人で話して。わらわに聞かれたらマズい話か?」
「……アッツェリテルト。俺の事は嫌なんじゃないのか?」
「わらわはお前のことをどう思っているのか、はっきり口に出したことがあったか?」
「嫌とか鬱陶しいとか帰れとかよく言われてるが」
「だが好きか嫌いかは言っていないだろう?」
「嫌いというふうにとれる態度ではあったが…」
「黙れ。いいからさっさと着いてこい」


「あーどーすんのさ」
「ヴェルディス効果が切れるまで一緒にいてくれ頼む!!」
「ああもう、わかったってば!」

(好きならいっそ手をだしちゃえばいいのに)
(…好きだからこそ、手を出さないんだ)
(ふーん)



その後、なんやかんやあって朝に治る。


「中途半端に効果を受けると対象の理性は残ったままになってしまうのか。となるともう少し紫狂石の粉末を増やして…」
「……追加注文の場合の値段はどれくらいになる?」
「―――金などいらん、特別だ。すぐに作り直すから待っていろ」


受け渡し。

「クロ、どうだった!?」
「ルゼレスか。ほら、頼まれた物だ」
「おお、作ってもらえたか。ん?金の方は大丈夫だったか?」
「まあ、それは大丈夫だったが…別のところで色々あってだな……ああ、今度ヴェルディスがお前をぶん殴りに来るそうだ」
「は?……いやいやちょっと待て!なんだなんでそうなった!?」
「黙って殴られろ」
「もちろんクロは止めてくれるんだろうな?」
「残念ながら俺はお前を羽交い絞めにして、何度も殴りやすいようにしっかりと固定しているだろうな」
「マジかよ…」
「……で、それを誰に使う気だ?」
「ふふふ、聞いて驚くなよ?………管理局のウィゼリア様だ」
「……。先に言っておくが、薬を使ってもその間の記憶は残る。お前、殺されるぞ」
「ウィゼリア様になら殺されても!!」
「お前の想いと今の言葉はウィゼリア様に伝えてもらうよう…そうだな、イヴェ様にお願いしようとするか」
「イヴェ…って管理局の鬼のイヴェ・メリエか!?」
「ああ」
「頼むやめてくれ許してくれ…!!」

「さて…そろそろか」
「?どうした、っておいおいなんで羽交い絞めに…?」
「ルーゼーレースー!!!!」
「ヴェル――あ、そういう事かこの裏切り者め!」
「黙って殴られておけ」
「こんの馬鹿野郎があああああ!!!」
「ぐああああああああああ!!!!!」
「鳩尾に一発。見事だな」
「てぇい!とぉっ!やあっ!!だぁっ!!」
「……………」
「……おい、ヴェルディス。ルゼレスが気を失ってるぞ」
「ああ、アルトに強化魔法かけてもらったからかなりの痛さだろうね」
「アッツェリテルトの分というわけか」
「まあそうなるね」
「……ルゼレス、今回ばかりは諦めろ。全ての原因はお前なんだからな」
「あ、そうそう。せっかくだからここ来る前にイヴェ様にルゼレスの惚れ薬の事お知らせしておいたよ」
「そうか、なら後は俺に任せておけ。ヴェルディスは早くアッツェリテルトに報告に行ってやれ」
「ラジャー!」


(色々ありすぎて、疲れたな……今日は俺も休むか……)



 * * *

いつぞやの漫画の話の元が残ってたので、こっちに上げてみました。

そしてちょっとした補足。

クロ:上司の呼び名、真っ黒だからクロ。
ルゼレス:女好き、残念なイケメン。踏まれるのが似合ってそう。
ウィゼリア:管理局の受付嬢、ふわふわ系美人。言う事はハッキリ言うので口説きに言った男どもは皆大敗してくる。
イヴェ:管理局の鬼女、ウィゼリアの親友。かっこいいお姉さん。死神たちの中でも恐れられる方、怒ると超怖い。


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執筆:2013/01/14

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