創作小説 | ナノ
Original - n
じめじめぱにっく

カレリアも、梅雨になりました。

古城の8人(と2匹)、梅雨だからかちょっと気持ちもじめじめ。
一部の住人は外に出れない事もあって、古城の中はちょっとした騒ぎになっていました。


 *


「じめじめしていて鬱陶しいというのに…お前達はこっちに寄るなっ!失せろっ!!」


叫ぶように言葉を発して古城の中を全力で飛び回るのは本の魔女アッツェリテルト。
住処としている本を落とさないように抱きかかえながら、廊下を滑るように飛んで逃げ回っていた。

そしてそれを追いかけているのは、煌羅とラズリとふーとむーを除いた5人だった。

「私を本の世界に連れて行ってよぉーっ!!」
「僕もお願いしたいところですっ…!」
「俺も連れてけー!!」
「アルトばっかずるいんだよっ!!」
「黙って一人気楽に梅雨を乗り越えるとかホントずるい!!」

それぞれが飛び回って逃げる魔女を全力で追いかけながら主張を繰り返す。
それだけ言うと、いつものマリスとミサキの追いかけっこの様に聞こえるが実際はそうではない。
普段はお遊びの追いかけっこだが、今回は戦争といってもいいほどの勢いだ。





「死神上司よりも鬱陶しい……それにしても…迂闊に魔法を使ったりと手出しはできないしな…どうするか…」
アッツェリテルトは逃げながら溜息を吐き、どうやってこの状況から上手く逃げ出すか考える。


そもそもこうなってしまったのも梅雨が原因だった。
梅雨のせいでじめじめしているうえに、雨で外に出られない状況が続く毎日。
外に出たり買い物に行ったり薔薇の手入れしたりあばれたりと結構外に行く事の多かった住人は、この梅雨のせいで気持ちまでじめじめと苔に覆われてしまったのではと思うほどに元気が無くなってしまったのだ。
そんな中、自分は本の世界に行けると言う事から梅雨とはほぼ無縁(古城にいる時は関係するが)状態で、毎日日の光を浴びていつもと変わらない生活を送っていた。
もちろん、そんな事がバレでもしたら住人達に何を言われるかわかったもんじゃない(ご飯を抜かれてしまうかもしれない)ので言われない限りは自分からこの事は口にしないと決めていた。
が、それが裏目に出てしまったらしく、本の世界から帰ってきて皆の集まる場所へ行くと、住人達は自分(もそうだが主に本)を睨むようで羨ましそうな目で見て獣のようにいきなり襲ってきたのである。

そんなこんなでずっと古城の中を逃げ回って一時間以上はたっている。
住人達は欲望の前には疲れる事を知らず、ずっと自分を追いかけてきている。
最初の頃には移動石や魔法でどこかに移動するか引き籠るかして梅雨が明けるまで待っていようかと思ったが、アッツェリテルトは獣となった住人を見てすぐに諦めた。
このまま逃げて後で帰ってきたら、今度は獣ではなくゾンビが襲ってきそうな気がしたからだ。


「わらわは負けぬ、絶対に。…わらわはまだ死にたくはないからな」

もう戦うしかない、と戦う事を決めたアッツェリテルトは、ホールへと向かった。


 *


狭い廊下を抜け、一気に視界が開けた。

片手で本を抱えたまま素早く詠唱し、魔法を発動した。

「うわああっ」
「わ、何これぇ…」
「氷の壁…ふぅん、アルトってばやる気出してんじゃん」
「そんな事はいいから、早くこの邪魔な壁を壊しましょうよ」
「じゃ、マリスにまかせた」

廊下からホールに抜けられるはずのその場所は、アッツェリテルトの魔法によって分厚い氷の壁で覆われていた。
その氷の壁の向こうで追手の住人達が話している言葉は、まるで氷の壁がないかのようにはっきりとアッツェリテルトに聞こえていた。

「次は…ああ、少し遊んでやろう」
くすりと笑い、再び詠唱を始めるアッツェリテルトの耳には氷の壁を壊そうと頑張る住人の声と音が聞こえていた。

「よっしゃ、壊したぞ!!」
「さすがマリス!よしじゃああたしが一番っ!!」
そして、氷が壊れるのと同時にアッツェリテルトは詠唱を終えて再び魔法を発動させた。

「うっわぁぁぁぁ!!」
「うおわあああああ!?」
「…っ!!」
氷の壁を壊したと同時に駆け出そうとした3人は、そのまま魔法で作られた大きな落とし穴におちてしまった。

「…ちょ…危ないなぁっ…!」
「うっわー、さすがは我らが本魔女様」
3人より一歩遅れて駆け出そうとした2人は、運良く飛べたために落とし穴には落ちずに住んでいた。
だがしかし、それがわかっていたアッツェリテルトはもう一つの魔法を発動させた。

「…ふぅ、危なぁいぃ」
「うわぁ!?…って、何これ…網?」
飛べる2人をひっかけるために網をその場に出すも、捕まったのは死神一人だけだった。
網から逃れたミサキを目で追いながら、網をとってもらうため落とし穴組の所へむかうヴェルディスを見て再びアッツェリテルトは詠唱を始めた。
それを見てか、飛んだままのミサキは愛用のレイピアを手にしたまま様子見をしていた。

「甘い、な」
そう呟いた瞬間、再びアッツェリテルトの魔法が発動し、ミサキは身構えた。
が、次の瞬間聞こえたのはリュッツェル以外の落とし穴組の叫び声。

「ふ、ふふ…あはははははっ!」
「うっわぁ…」
アッツェリテルトが何をしたのかとミサキが振り向くと、落とし穴の上に氷のふたがされていた。
しかもよく見ると、落とし穴組が酸欠にならないようにところどころ小さな空気穴があいている。

「大丈夫かなぁ…」
空気穴があいているとはいえ、一応心配になったミサキはアッツェリテルトを気にかけながらも落とし穴の近くへと向かった。
が、行って後悔したとミサキはすぐに思った。

「僕の傘で刺すなんて、折れたらどうするんですか!?」
「そうだよ、あたしのレイピアだってミサキのとは違って刺す専門じゃないんだからさー」
「でもそっちの武器の方がやりやすいじゃん」
「そうそう、それにさっきは俺が一人で壁壊したし」

「………」
ぎゃいぎゃいと騒がしい氷の中、穴から中を良く見ると4人はこの氷の蓋をどうにかしようとはしていたが、仲間割れのような状態になっていた。
騒がしい声を聞きながら振り返ると、呆れたように氷を見るアッツェリテルトがいた。
そのせいか、ミサキの中で燃え上がっていた炎が一気に弱くなり、燃えていた火は消えてしまった。
そうなると急に今までしていた事が馬鹿らしくなって、湿気が酷いうえに古城の全てを走り回ったせいで身体の調子が余計に悪く感じられるのが倍になって思えた。

「なんか…もういいやぁ…」
「やっと目が覚めたか」
「うん…」
梅雨でじめじめ重い気持ちが余計に重たく感じながらレイピアを鞘におさめた。
それを見てミサキにもう戦意は残ってないと判断したアッツェリテルトは溜息を吐いて落とし穴のすぐそばまできて、騒ぐ4人のいる落とし穴を見おろした。
そんなアッツェリテルトを見て、喧嘩する4人の声を聞いて、ミサキは苦笑するしかなかった。


 *


「え、行っちゃうのぉ!?」
「なんだ、まだ何かあるのか」
「い、いやぁ…これをそのままにするのかなぁってぇ…」

少し待ってもなかなか喧嘩が収まらないので(氷を壊すための事で喧嘩していたはずが、気がつけば普段の事などの事も言い合い始めていた)もう部屋に帰ろうと思いその場から去ろうとしたアッツェリテルトだったが、ミサキがあわててアッツェリテルトを止めた。
このままにしちゃったら今日のご飯は誰が作るのかとか、このままだと邪魔になるんじゃないかとか色々あったけれども、やはりこのまま閉じ込めておくのはさすがに可哀想なんじゃないかと思った。
誰が悪いと言ったら自分達なのだから仕方ないとは言えるけれども。

「正気に戻るまで放置しておけばいい」
「…ええとぉ……いやまあそうなんだけどさぁ…」
「なんだ?文句を言いたいのはわらわの方だぞ?」
「うっ」

確かに悪いのは自分たちとはいえ、このまま放置したら出てくるのはいつになるのやら。
色々と問題があるような気がしても、結局は自分たちがアッツェリテルトを追いかけらからこうなったんだと思うと自分じゃどうする事もできなかった。
本当は自分がこの氷を壊してあげたいけれども、出してあげたらまた追いかけっこが始まるだろうし、そもそもこのまま追いかけっこを続けたらアッツェリテルトが本気で怒ってしまう。
魔女なだけあって一番魔力の強いアッツェリテルトが本気で怒ったらどうなってしまうのやら、と考えたところでふと気付く。

「アルトがいないぃ…」

ミサキがどうしようかと考えているうちにアッツェリテルトは部屋へ帰ってしまっていた。
そうなると、この場をどうにかできるのは自分しかいないと考えて、溜息を吐いた。

「わ、私…身体の調子悪いからお手入れしなくっちゃぁー…」

喧嘩している4人に聞こえるか聞こえないかの声で言うなり、ミサキは慌ててその場から逃げるようにして部屋へと戻っていった。
勿論、喧嘩に熱中している4人はミサキが逃げた事やアッツェリテルトが部屋へ戻った事など全く気付かないまま。

その後ミサキは心の中でごめんなさいを何度も何度も繰り返しながら部屋にいた煌羅とラズリと一緒にトランプで遊んだりお菓子食べたりして時間を過ごし、アッツェリテルトは本に湿気避けの魔法をかけたり本を読んだりしていましたとさ。



残された4人はというと、喧嘩から色々あって反省会となり、それから時間がたって夕方頃に氷を壊して穴から出てきてアッツェリテルトに謝りに行ったらしい。

その後、アッツェリテルトが古城に一時的に湿気避けの魔法をかけてくれるようになったらしい。
それ以来住人が獣のようになってしまう事はなくなり、毎日快適に楽しく仲良く過ごすようになりました。


 * * *

元拍手御礼でした。

インドアよりアウトドア派な住人達は梅雨が苦手です。
梅雨は軟禁されている気分になっちゃいます。
そんな中一人梅雨知らずな子がいて、羨ましいけどむかつく!という住人達。
でも気がつけば限界を超えちゃって獣化しちゃいました、というようなお話。
多分冷めた後暫くは、どうしてこんな事になったんだろう…、って落ちてると思います。

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2011/05/28:執筆

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