創作小説 | ナノ
Original - n
モノクロドリィム

 
「―――――――」


今日もまたあの夢を見た。

いつも見る場所、誰もいないモノクロの遊園地。

一瞬前までは人がいたような感覚がずっと残っていて。
静かなのに、どこか賑やかな感じのする不思議な遊園地。
音はしないけれども乗り物はずっと動き続けている。
幻想的な、けれども色のない夢の世界。

普通ならば恐怖を感じるであろうその"世界"は、何故か恐怖も楽しさも――何も感じる事はなかった。


「――――」

私の声も聞こえない。


――――そもそも私は声を発していたのだろうか?


相変わらずの無音状態だけれども、不安は無かった。



何をするでもなく気の向くままに歩いていると、小さくはないけれどもあまり大きいとも言えない大きさの柵が見えてきた。
しかし近くまで来ても柵の外を見る事は出来ず、まるでこの遊園地が深い深い霧の壁に覆われているかのようだった。
不思議だなぁと思いつつ柵から少し離れたところで立ち止まり、私はそれ以上柵に近付く事はしなかった。
別に柵に近寄れなかったわけではなく、自分の意思でそれ以上は近寄ろうとしなかっただけだ。
勿論、誰に止められているわけでも、"それ以上近付いてはいけません"と看板があるわけでもない。
そして心の中で"外"に恐怖を感じているわけでもなく。

――――もしかしたら"ここにいれば安心、大丈夫"と思う気持ちでもあったのだろうか。

しかしその答えは誰にもわからない。


「――――――――」


"ここからはでられないのになにをおもうの?"

"わたしはここにいるのがいちばんなの"

"ここがわたしのせかい"


それを口にしたのか心の中で思っただけなのか、はたまた私以外の誰かが言ったのかなんて分からない。
けれどもその言葉だけで私の頭の中から"柵の向こうの事"は消えてなくなってしまった。

ふっと息を吐き、踵を返して先程歩いてきた方向へと向かう。


ああそろそろ行かなくては――――



ここから出られないはずの私は、歩きながら消えた。


  ‥ ‥ ‥ ‥ ‥

頻繁に、ってわけじゃないんですが小さい頃からたまに見る固定世界の夢。

…しかし、実際こんな状況に陥ったら恐怖で大パニックになる自信がありますね。

 − − −

2010/11/27:執筆
2013/01/22:加筆修正、再公開

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