Original - n
まっさーじ・2
「っ…!」
夜遅く、ある空き部屋の前を通りがかったら苦しそうな声が聞こえてビクリとした。
一瞬幽霊でもいるのかと思ったが、次の声と言葉にそれも違うとすぐにわかった。
「っ、く…あっ!」
「ふふ、逃げないで下さいよ」
「ぐっ…る、せぇ…ぐあぁっ!」
部屋の中から聞こえた声は、マリスとリュッツェルのものだ。
「………」
しかしこの状況はどうしたものか。
どう考えてもこの部屋から聞こえるマリスの声はまるで拷問にでもに耐えているような、とても苦しそうな声だった。
一度この部屋の中から聞こえる声を耳に入れてしまったが最後、きっとこのまま部屋に戻ったとしてもマリスの事が心配で落ち着いていられないだろう。
「痛いですか?」
「はぁ…はぁ……ったりま、ぇ…ぐぅ…っ!」
リュッツェルの言葉が確かなら、マリスのその声は痛みに耐える声という事になる。
まさかリュッツェルがそんな事をするはずがないとは思うものの、こんな時間帯に空き部屋に二人だけでいるとなると疑いたくなくても疑ってしまうもの。
確かに通りかかりの身ではあるが、そんな事を聞いてただ黙っているだなんて事はしたくはない。
見過ごす事はしないと、騎士として生きるようになった時に決めたことだ。
けれど、やはりリュッツェルは大切な仲間だ。
疑いたくなんて、ない。
「ふふふ…ではこういうのはどうでしょう?」
「がっ、あ…やめ、あ、ああああああっ!!」
「ちょっと、何してんの!?」
迷ったまま聞き耳を立てる。
けれどマリスの苦しそうな声が叫び声に変わった瞬間、動かずにはいられなかった。
「…はい?」
自らの手により開け放たれたドアのおかげで部屋の中が丸見えの状態になる。
そこに見えたのは床に敷かれたマットの上で裸足になり仰向けで寝転がり汗だくで荒い呼吸を繰り返すマリスと、そんなマリスの足を持ち、首をかしげて自分を見るリュッツェル。
どう見ても足ツボマッサージ中のその光景を目にして、思わず部屋の扉を思い切り開けて一歩足を踏み入れた状態で固まってしまう。
「っく、はーっ…はーっ……ラナ、か…?」
「……ああ、そういう事ですか」
「え」
息を整えながらこちらを見るマリスの視線に、勘違いをした恥ずかしさで顔が赤くなっていくのがわかる。
そしてリュッツェルは自分が何を思って部屋に入ってきたのかを理解したらしく、ニヤリと笑いマリスの足を離して立ち上がり、立ち尽くす自分の目の前まで来た。
凄く楽しそうに笑うリュッツェルを目の前にして、穴があったら入りたいむしろ埋まりたいと思った。
「僕が、マリスに。何か危害を加えようとしていた…と」
「えーと、いや、その…」
リュッツェルがマリスに聞こえないように小声で話しかけてくる。
「ふふふ…僕がそういった事をするような人間だと…そう、言いたいわけなんですね?」
そうじゃない事くらいわかっているくせに、リュッツェルはあたしの事を責めるように言ってくる。
物凄く楽しそうに笑うリュッツェルは、普段マリスをいじっている時のような顔をしていた。
勿論そんなリュッツェルに変に反応したらいじりつくされるなんて事くらい、わかりきっている。
―――本当にもう、誰か今すぐあたしを土の奥深くまで埋め込んでくれればいいのに!
心の中で叫んでもどうしようもないけれど、叫ばずにはいられなかった。
* * *
よくあるマッサージの第三者勘違いネタのツボ押しver。
普通の方がああならツボ押しはきっとこうなるはず。
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2012/09/06:執筆