Original - n
まっさーじ・1
「あっ…」
夜遅く、ある空き部屋の前を通りがかったら変な声が聞こえてビクリとした。
一瞬幽霊でもいるのかと思ったが、次の声と言葉にそれも違うとすぐにわかった。
「…んっ…はぁっ…」
「気持ちいいですか?」
「う、ん……ぅあっ…!」
部屋の中から聞こえた声は、ミサキとリュッツェルのものだ。
「………」
しかしこの状況はどうしたものか。
一度この部屋の中から聞こえる声を耳に入れてしまったが最後、きっとこのまま部屋に戻ったとしても気になってどうしようもないだろう。
「これはどうですか?」
「っ……ああっ…!」
「………。す、少しだけ…」
魔が差すという言葉はこの時使うのだろうと思いながらも、部屋のドアを気づかれないようにそっと開けて隙間から覗き込む。
初めに見えたのは床の上にマットを敷いてその上に横たわるミサキの足と、少しだけ見えたリュッツェルの服の端。
それだけではよくわからなかったので、もっとよく見ようとする。
「何してんの?」
「うぎゃっ!!」
危険を承知で覗こうとした瞬間、ラナに肩に手をぽんと乗せられた上に声をかけられて思い切り驚いてしまった。
あまりの事に驚きすぎて大声を出してしまった事にすぐ気づき、はっとする。
ラナはよくわかっていないこともあり、普通にドアを開けて中に入ってしまう。
「なんだミサキとリュッツェルじゃん。ここ空き部屋でしょ?なにやってんの?」
「ああ、マッサージですよ。僕が得意と言ったらやって欲しいと言われたので」
「すーっごくぅ…気持ちいいんだよぉ…」
「へー。で、マリスは?」
ラナの手により開け放たれたドアのおかげで部屋の中が丸見えの状態になる。
そこに見えたのはうつ伏せで寝転がるミサキのお尻の当たりの上にまたがるリュッツェル。
ミサキはよっぽどリュッツェルのマッサージが気持ちよかったのかにへらぁっと脱力したまま笑う。
ラナは興味があるのかないのかよくわからない反応をしてから自分に話を振った。
「え」
「なんか聞き耳立ててる感じに見えたけど…何やってたの?」
まさにその通りなわけで、でもその通りだとも言えずにしどろもどろになりながらラナを見る。
ラナは呆れたようなけれどどこか楽しそうな表情で腕を組んでこちらを見てくる。
ミサキはともかく、笑顔でこちらを見てくるリュッツェルの視線がもの凄く痛い気がする。
「ふふふ…マリスはこれでも女の子ですし、きっと興味もあったんでしょう。ねぇ、ラナ」
「ああ、そういう事。……あー、まー、そういう考えがあっても悪くはないよ、皆綺麗なまま生きれるわけじゃないんだし」
「え、ちょっ!?」
「そうですね、誰しもそういった思いは持ち合わせているものですしね」
「あはは、確かにそうだよね。神に仕える者だってそういう事を考える事だってあるかもしれないしね」
とてもとても怖い笑顔でそういうリュッツェルの言葉をラナはすぐに理解し、ニヤリと笑いラナも続く。
確かにそういうように聞こえたのには違いない、違いないがそういった考えを常日頃持っているわけではないので慌てて否定しようとするも二人が言葉を被せてくるのではっきりと否定ができない。
気持ちよさの余韻に浸ってたミサキはいつのまにか眠ってしまっているのでまだこの二人だけだということが幸いかとも思われたけれども、それでマイナスがプラスになる事もなくマイナス一直線だ。
むしろ二人はフォローするかのように見えて傷を抉っている、わかってやっている。
「そうですよね?」
「ねえ、マリス?」
「……は、はははは…」
そう問いかける二人の笑顔はとても素敵で、けれども恐怖しか感じないものだった。
―――ああもう、本当にどうしてこうなった。
俺はもう、笑う事しかできなかった。
* * *
よくあるマッサージの第三者勘違いネタ。
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2012/09/06:執筆