創作小説 | ナノ
Original - n
終わらない夢を見よう

時間が経つという事を止めるすべはないもので。

成長できる者とできない者、寿命の長い者と短い者の差を埋める事はできないもので。


人間の寿命は短い。
それはこの古城の住人にも言える事――――


時を刻み続ける時計の針に苛立ちを感じて時計を壊しても、時間は止まらない。

一人、一人と減っていく住人。
時間と共に、賑やかだった場所は静かになっていく。



それを意識しだしたのは何時の事だろうか。

人間という種族の時間は短いというのは知っていたが、ここまで早いものだとは思っていなかった。
私が気が付いた時にはもう、彼女達はしわしわの小さなお婆さんになっていた。


あんなに騒いでいたあの頃は、こんなにも遠かったのだろうか。
私からしたら"昔"ではなく"この前"といった表現が正しいような気がするけれども。


 * * *


はじめに一人。

皆に見守られながら、眠るように息を引き取った。
彼女は彼女の生まれた地に埋葬された。

埋葬後、彼女の大好きなお酒が墓石にかけられたのが印象に残った。

皆、泣いていた。


つぎに二人目。

彼女もまた、残る者に見守られて息を引き取った。
彼女は生まれた地ではなく私達と過ごしたこの場所に残る事を望んだ。

真面目な彼女は、自らの瞳で騒がれるのを嫌っていた。
だからこそ、安心していられるここを選んだのかもしれない。


皆、泣いていた。

彼女の兄が、親友が、よく彼女のお墓参りに来るのを私は窓越しに見ていた。



三人目。

彼女は亡くなるというよりも、眠るといった方が正しかった。
ずっと変わらないままの彼女は、小さくて可愛い子供のまま。
眠る時に寂しくないように、皆で傍にいてあげた。
きっと良い夢を見ているのだろう彼女は、もう一人の変わらない彼女の部屋で眠り続けている。

彼女は泣かなかった。
他の者は、影で泣いた。


思えば、きっとここから彼女は――――



四人目。

彼女も、生まれた地に埋葬される事を望んだ。
彼女を愛した者が、眠る彼女を見て泣いた。
鍛練をよくしていた彼女の為に彼女が愛用していた武器も一緒に埋葬しようとしたが、大きすぎたために彼女の傍に置く事が出来なかった。
仕方がないので彼女眠る場所に立ててきた。
彼女の母がかけた魔法のおかげで、それはとても綺麗なままだった。

赤いリボンが風になびく。

彼女で遊ぶのが大好きだった彼女は、最後まで泣かなかった。
死神と魔女は、泣かなかった。
他の者は、泣いた。


きっと彼女を愛した妖精も、泣いていたと思う。
私は彼女じゃないので彼らの言葉はわからない。



五人目。

最後まで相変わらず騒がしかった彼女も、とうとう眠りに就いた。
思い返してみれば、見た目は変わらない彼女も昔と比べれば多少なりとも成長していたのかもしれない。
三人目の彼女と共に静かに眠る道を選んだ彼女は、本の魔女に願いを託した。
魔女は願いを聞き、彼女達が眠る部屋を用意した。

小さな小さな本(ハコ)のセカイ。
一つだけのハコに、彼女達は眠る。

泣いたのは、彼女だけ。
死神と魔女は、泣けなかった。


六人目。

彼女は昔の子供の姿とは違って老婆の姿をしていた。
人間の姿で過ごしていた彼女は急激に衰える体を見て、死期が近い事が理解できてしまっていたようだ。
しかしそれが事前に準備をするきっかけともなったのも事実だろう。

最後に残された彼女は、皆と一緒がいいと言っていた。
沢山の同族達が燃え尽きたという草も生えないその場所に、綺麗な木の墓ができた。

残された者は、ああさみしいなあと思った。



それからしばらく。
私が気が付いた時にはもう、古城のお墓に誰かがお参りに来る事もなくなっていた。

古城に残されたのは、死神と魔女と妖精だけだった。

 * * *


死神は壊れかけていた。
これが捨てた代償なんだと、それを受け入れていた。

魔女は笑った。
失う事も、失って死神が壊れる事も全てわかっていた事だと、魔女は笑った。
笑う魔女が手に持つのは、彼女の愛した者の残した本と、ハコのセカイの本。

妖精は何も考えていなかった。
ただ、いつものように埃を貪るだけ。
残った者のどちらかが妖精と言葉を交えることが出来たのなら、何か変わっていたのかもしれないけれど。


残された死神をずっと見守ってきた上司は、急に静かになった。
魔女に部下を心配する気持ちを綴った手紙を渡す事も、魔女の部屋に押し掛ける事も、数える程度になった。

彼女達がそれを気にする事はなかった。


 * * *


死神というのは死神としての仕事をしているからそう呼ぶのであって、死神の仕事をしない者を死神と呼ぶのはおかしいのではないのかと彼女は思った。
だからといってそれを彼女に伝えて何が変わるわけでもないけれど。


 * * *


ある時彼女達は終わりの話をした。


彼女は言った。
終わりはないけど消滅はできると。

彼女は言った。
終わりは見えないけど終わらせる事はできると。



壊れた彼女は失ったものを数えて回った。


ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ。

ななつと彼女を指差した。
やっつと自分を指差した。


それが何の意味を示すのか、魔女は理解していた。
理解したからこそ、消える彼女の為に色々してあげた。


彼女の上司は黙って彼女達を抱き締めた。

妖精は、全てを理解したうえで残る意思を見せた。



七人目。

壊れた彼女は笑顔で別れを告げ、そして消滅した。


最後に残った魔女は、消えた彼女の上司から彼女達に関する全ての記憶を奪った。

その後、魔女は壊れた彼女と同じように失ったものを数えて回ってみた。


ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ。

数え終わって古城に帰ってきた魔女を出迎えたのは、妖精だけだった。


 * * *


魔女は笑った。

魔女は笑った。


魔女は泣いた。


泣きながら魔女は魔法をかけた。
古城に誰も入れないように。


そして魔女は白紙の本を手に取った。

古城の中を歩き回り、無我夢中でペンを走らせる。
本の世界と古城を行き来しながら、古城の全てを本に書きとめた。


一冊の本を完成させた魔女は抜けが無いかしっかりと確認をして、最後に置き手紙をしてから自分の記憶と奪った記憶をハコのセカイに閉じ込めた。


 * * *


「ここは…?」

気が付くと古びた建物の中にいた。
なぜこんな所にいるのだろうと思って記憶を辿ろうとしてみたが、不思議な事に肝心な部分だけがすっぽり抜けていて全く思い出せなかった。
誰かに連れてこられたのだろうかと考えながらあたりを見回してみると、机の上に置かれた綺麗な三冊の本と一つの手紙が目についた。

「何だ…?」

古びた場所に置かれた不自然な本と手紙に疑問に思いながらも手紙を手に取り、万が一の事を考え警戒しながらゆっくりと開いてみた。


「本…封印……ここに……ああ」

自分とよく似た筆跡で綴られたその手紙を不思議に思いながらも読んでみる。
すると何故か読み終えた頃には疑問も不思議に思う感覚も無くなっていて、気が付くと手紙に書いてあった内容の通りに体が動いていた。

初めに、置いてあった綺麗な一冊の本に封印の魔法を念入りにかける。
次に、一番新しいと思われる本で指定されたページを開く。
そして最後に残った二冊の本を持ち、自らの能力を使い開いた本の中へと入っていった。


 * * *


「わああああっ!?」
「何だ、騒々しい」

叫び声と共に本が落とされる。
落とされた衝撃に不快感を感じつつあくびをしながら本から出ると、本を放り投げたと思われる灰色の服の小さな少女と目が合った。

 − − −

2012/02/28:執筆
2012/08/02:ブログから移動
2013/01/21:加筆修正
2013/06/06:吸血蝙蝠の設定変更により煌羅の見た目部分修正

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