創作小説 | ナノ
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贈る花言葉

「これ、可愛いでしょう?あげますから部屋に飾って下さい。…貴方も年頃の女の子なのですから、少しは女らしく振舞ったらいかがですか?」
「あははぁっ、リュッツェルってばマリスに女らしさを求めても無駄なのわかってるくせにぃーっ」

そう憎まれ口と共に渡された白い花とそれを飾るための花瓶。
渡す時のアレは表面上だけであって、実際はただ単に自分にプレゼントしたいだけだという事をマリスは知っていた。
勿論それだけではない事も、マリスにはわかっていた。
周りに関係を知られたくない事もあり、いつもプレゼントにはなんらかの意味を含ませた上でお互いに渡しあうからだ。

けれど、今回のプレゼントにどんな意味が含まれているのかはマリスにはわからなかった。
ミサキが言っていた通りマリスに女らしさを求めるのが無理というもので、マリスの頭の中には花言葉というものは全く存在していなかったのだ。


「花と花瓶…に、どんな意味があるんだ…そもそもこの花が何て花なのかすらわかんねぇ…」

部屋に花を飾ったものの、プレゼントの"意味"がさっぱりわからないマリスは一人部屋で頭を抱えていた。
こういった事を考えるのは好きであっても得意ではなく、むしろ不得意な部類だった。
けれども今までやってこれたのはリュッツェルへの愛の賜物なわけであって、マリスは今回も愛と勢いで乗り越えようと頑張っていた。

「だぁー…誰かに聞いたら変に思われるしなぁ。ていうか絶対バレる、間違いない」

独り言を言いながら、花瓶に刺さる花をじっと見てみる。
白い小さな花が沢山集まって咲いている。
確かこれに似たようなものを街のすぐ傍の草原で見た事があるような気がする、と思い出すなりすぐにマリスは部屋を飛び出してその草原へと向かった。



「これか…」

草原に咲く小さな白い花達。
広い草原のとこにあったかまでは思い出せなかったマリスだが、街の子供達が集まってその花を摘んでいたのですぐにその花の元へとたどり着くことが出来た。

「おねえちゃん、どうしたの?」
「あー!おねえちゃんもナズナつみにきたんだー!」
「わたしたち、ぜんぶもっていかないよ。あんしんしてねっ!」
「っあー、うっせぇよ。そもそも俺は摘みに来たんじゃねぇし…ん?ナズナ?」

古城からここまで全力疾走で来たからか肩で息をしていたマリスを見て、子供達は驚いたり笑ったり心配したり。
見た目は煌羅くらいであろう子供達の反応に少し恥ずかしさを感じたマリスはそっぽを向きつつもうっかり聞き流しそうになった子供達の言葉を思い返し、花の名前らしき言葉を口に出した。

「やっぱりおねえちゃんもナズナつみにきたんだ!」
「いっしょにつもう?」
「だめ、わたしとつむのー!」
「わたしとー!」
「わたしー!」
「いやだから俺は別に花を摘みに来たわけじゃないって…うわっととと!?」

マリスの言葉を聞き、花を摘みに来たと思い一緒に摘もうとマリスを取り囲んで騒ぐ子供達。
苦笑しながらマリスは断りを入れようとするも、子供達はそんな事もお構いなしにマリスの手を引いてナズナの花畑の中へと進んでいく。
さすがにそこまでされたら断るわけにもいかず、だからと言って逃げるわけにもいかず。
少しの間だけ子供達と花を摘もうと思い、マリスは子供達の輪に囲まれながらその場にしゃがみこんだ。



「あ、リュッツェルー」
「どうしました?」

そろそろ夕食の支度をしなくてはと思い部屋を出ると、リュッツェルの部屋へと向かい廊下を歩くラズリと出会った。

「んとね、マリスから伝言なんだけど…御夕飯までに帰れなかったら先に皆で食べてていいって言ってたよ」
「ああそうですか、わかりました。教えてくれて有難うございます」
「えへへ、どういたしまして。…あ、御夕飯の用意、ラズリもお手伝いするねっ!」

マリスの伝言を聞いて心の中で嬉しそうに笑うリュッツェルなんてわかるはずもなく、ラズリは笑顔で手を挙げ夕食の支度の手伝いを申し出ていた。


僕のプレゼントの"意味"を探しに外へ出掛けたんでしょうね。
マリスの事ですからきっと遅くなるでしょうし…ふふ、楽しみです。



「おねえちゃんありがとうーっ!」
「たのしかったー、ありがとう!」
「またねー!」
「おう、またなー!」

夕日が沈みかけて空が少し薄暗くなってきた頃、マリスは子供達をそれぞれの家の近くまで送ってあげていた。
結局あれからずっと子供達とナズナを摘んだり追いかけっこして遊んだりしていて、気付けばもう夕食の時間になっていた。

結局わかったのは花の名前だけで、意味はさっぱりわからないままだった。
このまま帰るのもどうかと思うもこの後どうしようかと溜息を吐いた瞬間、くいと少し服を引っ張られる感覚。

なんだと引っ張られた方を見てみると、最後に送った子がいた。
どうしたのかと思っていると耳を貸せというようなジェスチャー。
早く帰らないとお母さんに怒られるぞと言いながらもしゃがみ、そのこの言葉にマリスは耳を傾けた。



部屋へ戻って時計を見てみると、針は日が沈む頃の時間から結構進んだところまで来ていた。
古城の住人が住人なため一日帰ってこないだけで心配はしないものの、関係が関係なだけに連絡が無いと少し心配になってしまう。
さすがに街に出掛けただけで鳩を飛ばしてくるのも馬鹿馬鹿しいとはいえ、やはりそういう関係なんだから気にしてしまうのも仕方ないという事で。

椅子に腰掛けて読みかけの本を開くもなかなか集中できず、ほんの数ページ読んだだけで本を閉じてしまった。
けれどリュッツェルが本を読むのをやめたからといってマリスが帰ってくるわけでもなく、だからといってなんとなく窓を開けてみても鳩が手紙を持って来るのが見えるわけでもなく。
自分は何をしているんだろうと思い溜息を吐いて窓を閉じようとした時にチラリと見えた鳩が幻なんじゃないかと思えるほどにリュッツェルはマリスの事を想い、マリスの事を考えていた。
リュッツェルは気にせずにそのまま窓を閉めようとしたが、鳩はどうにかギリギリ部屋の中に入ることが出来た。
危なかったと怒りリュッツェルの頭を突く鳩にようやくこれは幻ではなく本物だったんだと理解したリュッツェルは、慌てて鳩をなだめて持ってきてもらった手紙を読んだ。
そして読み終えるなりまだ立腹中でリュッツェルを突き足りない様子の鳩をどうにか外に出し、部屋を出た。


リュッツェルが急いで向かった先は厨房で、たどり着くなりすぐに料理を温めなおしはじめた。
温めている合間に食器を用意し終え、鍋の底が焦げ付かないように掻き混ぜながら先ほど読んだ手紙の内容を思い出した。


もう帰る
遅くなって悪い

追伸:わかった


それはメモのようで、小さな紙切れに走り書きで短く書いてあっただけだったけれどもリュッツェルにとって凄く嬉しい内容の手紙という事に変わりなかった。
追伸の意味は考えるまでもなく、プレゼントの"意味"がわかったという事だろう。
他に思い当たる事もないため、リュッツェルはそれの事についてだと確信していた。
リュッツェルは誰に見られても良いように表情はいつもの通りのまま、心の中で喜び嬉しさに浸っていた。

「ただいまー」
「おかえりなさ…どうしたんですか、それ」

早く会いたいと待っていた想い人の帰りにすぐ反応し、火を止めて厨房を出る。
が、予想とは違ってマリスは花弁や花粉が服について悲惨な格好だった。
あははと苦笑するマリスに冷たい視線を向けるリュッツェル。
そんなリュッツェルの視線に慌てて手で払おうとするも落ちるのは少しの花弁だけで、あとは手で払うだけでは落ちそうになかった。

「ちょっと街のちびっこ達に捕まって…」
「それ明日洗濯しますから、今誰も入っていないので先にお風呂入ってきて下さい」
「あはは……悪い、すぐ行ってくる!」
「ご飯は全部温まっています。後は自分でやって下さい、僕は知りません」
「あー悪い、じゃあ風呂行ってくる!」
「はいはいわかりました……はあ、もうなんなんですか…」

このままここで花粉を撒き散らされ続けてもたまらないので、リュッツェルはマリスを早く着替えさせるためにお風呂へと行かせた。
走り急いでお風呂へと向かうマリスを見送り、せっかく温めた料理が冷めてしまわないか心配をしつつリュッツェルは自分の部屋に帰った。


料理を温めて待っていたのに、アレは…いえ、マリスだからああなんでしょうね。
きっと……あれ、花…?


部屋の扉を開けて真っ先に目についたのが、部屋の備え付けの木のテーブルの上にある紫色の花の刺さった花瓶。
花瓶は新しく、紫の花にとても良く合う落ち着いたデザインの花瓶だった。
記憶をたどっても、手紙を見て部屋を出る時までなかったモノ。
これはマリスが置いたに違いない、そもそもマリス以外にこんな事をする人は誰もいない。


これは…ホトトギスでしょうか?
ええと、確かホトトギスの花言葉は―――



風呂上がりにリュッツェルの部屋に寄ってみたが、いくら扉をノックしてみても反応がない。
いつもなら本に夢中になっていたとしてもノックには気付くので、まさかもう寝てしまったのかと思いながらそっと扉を開けてみた。
すると花瓶飾ったテーブルの前で顔を真っ赤にしたまま立ち尽くし、何か言いたげに口を開くも何も言葉を発さないちょっと不気味なリュッツェルと目が合った。
部屋に入り扉を閉めると、相変わらず顔を真っ赤にしたリュッツェルが花瓶に刺さったホトトギスを指差して何かを言おうとしていた。
思った以上に可愛い反応を見せるリュッツェルを見て、マリスも嬉しながら思わず照れてしまった。

「その…アレだ、ナズナの花言葉は"貴方に私の全てを捧げます"なんだろ?だったらいいじゃねぇか」
「っば…馬鹿、じゃないですかっ!?」
「馬鹿でもいいだろ。だってそんなもんだろ、普通」
「……馬ー鹿」
「うっせー」

マリスは照れてそっぽを向きながらも、リュッツェルを優しく抱き締めてぼそぼそと小声で話す。
リュッツェルも、照れてマリスと反対方向を向きながらぎゅっと抱き返す。
そしてマリスに聞こえないように小さな声で呟いた。

「僕だって、貴方のものなんですからね」



ホトトギスの花言葉は"私は永遠に貴方のもの"―――



 * * *

「ところで、ナズナはともかくホトトギスの花言葉は誰の入れ知恵なんですか?」
「…まあ、アレだ。ぶっちゃけると両方ともたまたま会ったちびっこに教えてもらった」
「……ごめんなさい、聞くべきではなかったですね」



「おねえちゃんに、きょうのおれい!ナズナのはなことば、おしえてあげるっ!」

「〜〜〜っていうの…あれ?これナズナじゃなくてホトトギスかも。んと…あれ、あれ?」
「思い出せないなら無理するなよ。てかさっきからお母さん呼んでるし、俺は大丈夫だから早く帰りなよ…」

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2012/02/23:執筆

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