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Death "Veldis"

生きていたら26歳の誕生日の日の事。
死神装束を身にまとい、長い黒髪をなびかせて先輩との待ち合わせ場所へと向かった。


「今日から彼が君の上司だよ」

死神見習いを卒業したヴェルディスは先輩に連れられ、これからペアを組む上司と対面した。


「君が俺の部下のヴェルディアースィア・ウェル・ディ・ピューティエンか。宜しくな」

目の前には口元以外が布でおおわれて真っ黒な人がいた。
纏っている黒い服はボロボロで、その姿は絵本に出てくる死神そのものだった。


「本物の、死神だ…」

真っ黒な上司は笑って手を差し出したが、ヴェルディスは思った事を呟いた。

「…ぶはっ」
「……ぷっ…くくくっ…」
そんなヴェルディスの呟きに、二人は笑いを堪え切れずにお腹を抱えて爆笑してしまった。
そんな二人を見てはっとしたヴェルディスは、怒ったり恥ずかしがったりはせずに、二人が笑いから解放されるまで冷めた目で笑い転げる様子をじっと見ていた。


そんな死神上司とヴェルディスの出会いは、二人の記憶に深く深く残るものだった。



出会いから一週間。
今日はまだ仕事が来ていなく、地上に降りて日の光を浴びながら上司とヴェルディスは二人でのんびり散歩をしていた。
ヴェルディスの髪は出会いの日とは違い、短髪となっていた。


「ヴェルディアー…じゃなくてヴェルディス…………あー、すまない」

上司がヴェルディスの事を本名で呼ぼうとした瞬間にヴェルディスの突き刺さる視線に気付き呼びなおす。
が、本名で呼ばれかけた事によりヴェルディスの機嫌は一気に悪くなってしまった。
機嫌が悪くなり、むすっとしているヴェルディスを見て、上司は慌てて謝るもヴェルディスの機嫌は一向に良くなる気配はなかった。
それもそのはず、上司はこの一週間、わざとかと思える程に呼び間違える回数が多かった。
ヴェルディスも最初はむっとする程度だったが、回数を重ねるごとに不機嫌になる度合いがどんどん上がってきていた。

「…前から疑問に思っていたんだが…何故そんなに自分の名前を嫌うんだ?」

溜め息を吐き問い掛けると、ヴェルディスはむすっとした顔のまま立ち止まり、そこには触れるなと言わんばかりに上司を睨み付けた。

「ヴェルディスとは愛称でそう呼ばれているものだと思ったが…違う理由があるみたいだな」
「………うるさい」

同じく立ち止まった上司が苦笑すると、ヴェルディスは舌打ちをしてそっぽをむいた。
かなりイライラしていたのか、ヴェルディスは足元の土をブーツの先で抉るように蹴りはじめた。
蹴るたびに掘られ、徐々に穴が深くなっていく。
上司は何も言わずに、地面を蹴るヴェルディスが落ち着くまで、穴が掘られていくのをじっと見ていた。


「………っ、ああ!!」

上司がヴェルディスを観察しているのが癪に障ったのか、掘っていた穴を思い切り踏み付けて上司の方を睨み付けた。

「何なのさ…そんなに知りたいわけ?」
「…いや、言いたくないなら聞かないが……言うなら聞くぞ」
「本当に、嫌な上司っ…!」
「まあ、何とでも言えばいいさ」
「…ふんっ!」

食い付いてくるようでそうでもないような上司の態度になかなかイライラがおさまらないどころか、ヴェルディスは先程よりもずっとイライラしていた。
しかしそれと同時に、実は聞いてもらいたいと思っているのではないか、と思い始めてきている気持ちもあった。
嫌だけれども話してイライラから解放されるか、話さずにこれからもずっとイライラし続けるか。
どちらが良いかなんて考える必要もなかった。


「ああもう、仕方ないなぁ…」
「教えてくれるのか?」
「……わ、笑わないで…くれるなら…」
「勿論」

ふっと息を吐き、話す覚悟を決めたヴェルディスは上司から視線を外し、小声で呟くかのように言った。
二人がいるのは静かな場所だったため、上司には普通に聞こえたが、気にすることなく返事をした。


「……ピューティエンは、貴族の中でも有名な家系だったんだ」
「…………」

ちらりと上司の見えない顔を見ようとするが、何を考えているのかわからないヴェルディスは、上司の様子を伺いながら話しはじめた。
そんなヴェルディスに気付きつつも上司は黙って話すヴェルディスの言葉に耳を傾けた。

「わ、私はっ…全然、貴族とかそういうの興味なくって…家抜け出して、街の子と遊ぶ方が好きだった、んだ…」
「……」

「その…縛られるのとか嫌だったし…自由がよかったから…貴族なんて嫌で嫌で仕方なかったんだよね…」

「まぁ、それで家抜け出したら死んじゃったんだけど……でっ、でもさっ!今、私は貴族じゃない、そうでしょ?」
「…そうだな。今、ヴェルディスは死神だ」

最初から全て話そうと考えていたヴェルディスだったが、元々こういった話をするのが苦手だったため、途中を省いて話してしまった。
けれども、上司はそれを気にする事もなくヴェルディスの問いに答えた。

「今は、貴族なんかじゃなくて死神だから、私は貴族のヴェルディアースィア・ウェル・ディ・ピューティエンじゃない。死神のヴェルディスだから…」
「だから、死神のヴェルディスになるために、髪も切ったのか」
「…うん」

上司の反応がないため、上手く伝わっているのかがわからず必死に話しをするヴェルディスに気付いた上司は、以前に切ったのかと一言言っただけでそれからは触れていなかった髪の事を口にした。


「…心機一転という事か」
「そうだね、そんな感じ…うわっ!」

上司がふっと笑い、ヴェルディスに近づいて頭を優しく撫でた。
近づいていた上司を気にしていたなかったヴェルディスは、急に撫でられた事に驚き声を上げてしまった。
そんなヴェルディスの反応に、上司は少しむっとするも撫でる手は止めずに撫で続けている。

「うわとは何だ、うわとは」
「いや、ごめんなさ…じゃなくてっ!急に撫でられたら普通びっくりするって!!」

そう言うヴェルディスだったが、撫でる手をはねのけたりはせず、おとなしく撫でられていた。
そんなヴェルディスに気付いたのか、上司は黙って優しく頭を撫で続けていた。


「……こうやって、撫でてもらったのって小さい時だけだった」

撫でられながら、ヴェルディスは小さく呟いた。
上司は聞こえているのかいないのか、無言で撫で続けている。

「私悪い子だし、やっぱぶたれてる事が多かったからなぁ…」
「…もっと撫でてもらいたいのなら、これから頑張るんだな」

ヴェルディスの呟きが聞こえていた上司は、二回目の呟きで口を開いた。
そして言葉と共に撫でるのをやめ、ヴェルディスの頭を優しく二回ぽんぽんと叩いてからヴェルディスの頭から手を離した。

「何それ、"切り離しを頑張ったら、ご褒美に頭を撫でてやるぞ"とでも言いたいの?」
「そうだな、そういう事にしておいてやろう」

撫でられて少し乱れた髪を直しながら呆れ顔で上司を見るヴェルディス。
けれども上司にはヴェルディスが嬉しそうな顔をしているように見えた。

「ふん、ご褒美がなくても私頑張るしっ」
「そうか、なら俺のご褒美に頭を撫でさせてもらうか」
「…はぁ…もう勝手にすれば?…っわ」
「わかった。では勝手にさせてもらうぞ」

上司はヴェルディスと一週間一緒にいたが、今のように嬉しそうなヴェルディスを見るのは初めてのことだった。
そう思うと同時に上司も嬉しくなり、その気持ちを表すかのようにまたヴェルディスの頭を撫で始めた。
そして再びヴェルディスを見てみると、溜息を吐いて呆れたように身を任しつつも、やはり嬉しそうな顔をしていたヴェルディスがいた。

「ちょ、ちょっと…私が言ったのは今じゃなーいっ!!」


この日から仕事終わりにご褒美があるようになり、そのおかげか上司・ヴェルディスペアの仕事のペースが一気に上がったとか。
そして、二人の仲もそれから良くなってきている…らしいとの事。


  *

名前とご褒美のお話。
貴族のお嬢様だったで当初は髪は長く、短髪ではありませんでした。

この頃はまだ一人称は"私"だけ。

 − − −

2011/05/02:執筆

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