月の少女 | ナノ
Original - n
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 T・月の目


エリーネは一人、真っ暗闇の世界で浮かんでいる様な気がした。
気がするだけであって、実際は何かの上に立っているのかもしれない。
だが判断しようにもあたりが真っ暗で自分以外が全くわからないためどうしようもなかったのだ。

闇に包まれた世界の中で何をするでもなくただ立ち尽くしていると、目の前にエリーネと瓜二つな少女がふわりと現れた。
灰色のショートヘアーで青い瞳の同じ顔、身長も同じ。
ただ、白いセーラー服の様な服装でピアスをしているエリーネとは違い、その子は黒いドレスを身に纏っていて首にはエリーネの胸元にある物と同じリボンが巻かれていた。


エリーネは自分の正面に立つ少女をじっと見て、少女もエリーネを見かえす。


『私は本当に私?』

少女が口を開く。
その声は、エリーネと同じものだった。

「エリー?いきなりどうしたんだ?」
『…』

エリーネは自分と瓜二つな少女、エリーの問いを不思議に思った。
ここは自分の夢の世界。
エリーは自分の夢に住んでいる、自分の分身で双子のような存在。
自分はよく夢を見るのでエリーとはほぼ毎日会う。
会った時はエリーの部屋だったり、外だったりと色々な場所で紅茶を飲みながら楽しく話しをする。
自分の知っている限りでは、エリーはこんな事をいきなり聞いてきたりするような子ではない。
だからこそ、不思議に思った。

困惑しているエリーネを気にせずに、エリーはいつもと違う真面目な表情でエリーネをじっと見ていた。


「……そう、私は私。エリーネ・ハリスだ」

エリーネの答えを待つエリー。
いつもと違う視線が少しこわくて、エリーの考えがよくわからないままに答えた。

『何のために生きているの?』

エリーネが答えると、エリーは真面目な表情を崩さずに首を傾げて再びエリーネに問い掛けた。
大事な事、何か思う事があってエリーは自分に問いかけているのだろうと思い、エリーの問いに答えていった。

「私は私の日常のために生きている」
『じゃあ、誰のために生きているの?』
「…家族のためだろう」
『そう…』
「エリー?」
『……』

エリーネはエリーが問いかけてくる事全てに答えていった。
けれど答えると同時に、本当にそれは自分の答えなのかと疑問に思ってしまう。
日常のため?家族のため?
では日常とは?家族のためにとはどういう事?
それを考えれば考えるほどわけがわからなくなってくる。
今考えるのはやめよう、とエリーネは黙り込んでしまったエリーを見る。

エリーは先ほどの真面目な表情ではなく、どこか哀しそうな感じの表情でエリーネを見つめていた。

『…私は、何がしたいの?』
「何、が…?」

エリーネは心のどこかでこれが最後の問いかけだろうと思った。
だからこそ、早くこの問いかけに答えて、いつものエリーとどこかで紅茶を飲みたいと考えていた。

『何がしたいの?』
「…」

再び同じ事を問いかけられ、エリーネは口を閉ざしてしまう。
先ほどまでの事にはすんなりと答えられたが、この質問には答える事が出来なかった。

自分は、何がしたいのか。
考えれば考えるほどわからなくなってきてしまう。
「勉強がしたい」や「親孝行がしたい」など、簡単に答えられそうな問いでもある。
けれどもエリーの聞きたい答えはきっとそんな軽いものではないと思う。
答えを探そうとしても見つからず、今の自分では答えられないような気がしてきた。

『エリーネ、無理に探さなくても良いよ』

一生懸命考え答えを探すエリーネを暫く見守っていたエリーが苦笑して声をかけた。
羽が舞い上がるかのようにふわりとエリーネのそばへと飛んだエリーは、エリーネの頭を優しく撫でた。

「…」
エリーネは納得いかないのか、エリーの言葉には反応せずにまだ考えていた。

『…私がこんな風にさせておいて言うのもなんだけど、ちょっと夜風に当たって気分を入れ替えてきた方がいいかもしれないよ?』
「っ!エリー、私はまだっ…!」

ふっと溜息をつきエリーネから離れたエリーは、エリーネの言葉を無視してそのままふわりと夢の闇へと消えていった。
それと同時に、エリーが消えた所を見つめる一人残されたエリーネを優しい光が包む。
光に包まれていく中で、エリーネは心地のいい感覚に身をゆだね目を閉じた。

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2010/07/01:執筆

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