恋せよ少年少女



「ウィーズリー…ロナルドウィーズリーは何処ですか!」

ミネルバ・マクゴナガル教授の張り詰めた声が朝食後のまだ眠そうな空気の流れる大広間に響き渡った。グリフィンドールの生徒はまたかという表情を浮かべながらロンの姿を探す。だがそれは探すまでもなく、容易いことだった。何故ならロンは大広間を見渡して探すマクゴナガル先生の目の前に座っていたのだから。

「ウィーズリー!」
「あ……あの、先生…」

弱々しい声にマクゴナガル先生が声のした方を見下ろせば、そこには情けない表情で見上げるロンがいた。

「僕、ここにいます…」
「あらウィーズリー、いつからそこにいたのですか?いたのなら早く返事をなさい」
「………はい」

僕はずっとここに座ってたのに、と唇を尖らせて拗ねるロンを見て、向かい側に座っていたハリーとハーマイオニーは思わず吹き出した。

「まぁいいでしょう、ちょっと来なさい」
「え…先生、僕だけですか?」
「そうですよ」

先生に呼び出されるときはいつも3人一緒だったので、初めて1人で呼び出されたロンは呆気に取られた様子で口をぱくぱくさせてハリー達に助けを求めた。しかしハリーもハーマイオニーも呼び出された理由が分からないのでどうすることも出来ず、首を振るしか無かった。ロンがマクゴナガル先生に引き摺られるように大広間を出て行くのを見届けてから2人は顔を見合わせた。

「ハリー」
「うん、どうしたんだろう」
「うーん…分からないわねぇ…ロンってば何か規則を破ったのかしら?」
「僕の知る限りは無いけど…」
「ハリーが知らないなら規則絡みじゃないのかしね。じゃあ一体なんなのかしら…」
「惚れ薬に10ガオリン!」
「ゲーゲートローチに10ガオリン!」

ハーマイオニーが首を捻っていると、背後から同じ声が二重奏のように聞こえてきた。振り返るとそこにはロンの兄、フレッドとジョージがにやにや笑いを隠しもせずに立っていた。

「惚れ薬にゲーゲートローチ?」
「そうさハリー」
「きっと惚れ薬を盛りすぎたのか、」
「マクゴナガルの授業でゲーゲートローチを使ったのがバレたんだろう」
「仮にそうだとしても、ロンは誰に惚れ薬を盛ったっていうの?惚れ薬を盛られたようなロンにご執心な女の子なんて私、見たことがないわ」
「うん、僕もないよ」
「男かもしれない」
「まぁ、ロンが同性愛者だなんて聞いたことがないけれど」
「そりゃそうだろうね、ハーマイオニー」
「ただの思いつきだからな」
「…思いつきでそういうことを言わないで頂戴」
「あぁごめんよハーマイオニー、気を悪くしないでくれ」
「全く反省の色が窺えないわ」
「で、ゲーゲートローチは?僕たち、マクゴナガルの授業でロンが気持ち悪くなって抜けたところなんて見たことないよ」
「うーん…ハリー、それは確かかい?」
「うん。そうだよね、ハーマイオニー?」
「一度だって見たことないわ」
「あー…魔法薬学の授業で自分で生み出した謎の液体に吐き気を訴えてたことはあったような気がするけど…」
「あれは私の注意を聞かなかったロンが悪いわ。貴方も私も、きちんとあそこで蜥蜴の尻尾を細かく刻んで入れるんだって教えたのに彼ったら全然聞いてないんだもの」
「おぉ、思いもよらずに愚弟の失態を聞いてしまった…なんてことだ!」
「明日から弟の顔をまともに見れないな」
「爆笑しすぎて?」
「「そう!」」
「貴方たち…流石にロンが可哀想だわ」
「可哀想?」
「ロンが?」
「えぇ…あんまりな物言いよ」
「じゃあロンは後悔すべきだ」
「そうだな兄弟」
「何をだい?」
「「俺達の弟に産まれたことをさ!」」

高笑いをしながら、双子はローブを翻して意気揚々と去っていく。その背中を眺めながらハーマイオニーはあんぐりと口を開けて呆けていたが、ハリーが呼び掛けるとはっと我に返ったように頭を振って感慨深げに呟いた。

「ロンって、苦労してるのね」
「……そうだね」


×


デザートのプディングをつつきながら今日の変更授業に悪態を吐いていると、不意にハリーの斜め前に座っていたジニーが立ち上がった。

「あらジニー、もう戻るの?」
「えぇ。実は今日提出の薬草学のレポートがあとちょっと残っているの。だから早く終わらせなきゃ」
「手伝いましょうか?」
「大丈夫よ、ハーマイオニー。本当にあと少しだけだから」

ジニーはにこりと屈託のない笑みを浮かべて席を立つ。ふわりと香ったのはシャンプーだろうか、花のような香りがハリーの鼻を擽った。

「じゃあね、ハーマイオニー、ハリー」
「えぇ」
「あ……バイ、ジニー」

ハリーが去っていくジニーの翻ったローブをぼぅっと眺めていると、ハーマイオニーが咎めるように声を掛けてきた。

「ちょっとハリー、見すぎよ」
「え?……なにがだい?」
「………ハリー!」
「うわっ」

いきなり肩を揺さぶられたハリーは意識を引き戻されて椅子からずり落ちそうになった。慌ててテーブルを掴んでハーマイオニーに文句を行ってやろうと見上げると、呆れ果てた彼女に見下ろされていた。

「…………何」
「いえ?ただ、最近の貴方って本っ当にジニーにお熱よね」
「な、なに言っ…「あら、事実じゃない」

さらりと言い放ってハーマイオニーは再びプディングを口に運んであたかも優雅に咀嚼し、それからまたハリーに視線を戻してしたり顔で微笑んだ。その表情が全てお見通しよ、と言いたげだったのでむっとしてハリーは自分の分のプディングを掻き込んで、そして盛大に噎せた。


(恋はゆっくりと、少しずつ)



end.




ホーム / 目次 / ページトップ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -