美貌に呑まれる



レギュラスがどれだけ俺にとって愛しくて大切で欲してたまらないかなんて、そんなことを語り始めればきりがない。


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「バーティ、そこの教科書を取って」
「んー?」
「そこの薬草学の教科書。……バーティ、きみも寝っ転がってないで宿題を片付けたらどうなんだい?」
「……めんどくさいんだよ」
「別に僕は構わないけれど、困るのはきみだからね。後で泣きついてきたって僕は見せないし教えないよ」
「……今、やったら?」
「――――……教えてあげるよ」
「じゃあやる」
「バーティは単純だなぁ」

パチパチと薪が爆ぜる音が暖炉から聴こえる談話室で、柔らかなソファーに沈んでいた俺はレギュラスの言葉にがばりと身を起こし、手を伸ばしてソファーの下に落ちていたレギュラスの教科書を拾い上げた。卓上は彼が広げた教科書やノート、羊皮紙で埋め尽くされてしまっていて思わず息を吐く。どれだけ勉強熱心なのだろう、この友人は。

「ありがとう、バーティ」
「どういたしまして。…………レギュラス、こんなところ習ったか?」
「今日授業で習ったよ」
「……そうか」
「きみがぐっすりと寝こけている間にね」

付け足すように言われてぐうの音も出ない。その言葉に拍車を掛けるのがレギュラスの綺麗な微笑みである。嫌悪する兄に似て、弟のレギュラスも整った顔をしている上に、家柄は純血の高貴なるブラック家なのでかなりモテる部類に入る。当の本人はそんなことは意に介してもいないようだが。

「バーティは寝すぎなんだよ。きみ、これ以上大きくなってどうするんだい?」
「これ以上つっても俺はそんなに背ぇ高くないけど」
「……僕からすれば、高いよ」

少し拗ねたのか、僅かに頬を膨らませるレギュラスがやけに幼く見えて仄かに笑うと、彼は尚更むくれて唇を尖らせた。

「拗ねてるのか?」
「別に」
「……拗ねてるじゃないか」
「拗ねてない!」
「嘘吐き」
「っ、」

ふいっとそっぽを向いたレギュラスがいよいよ不機嫌も顕な表情になってしまったので、苦笑したままソファーから立ち上がって彼の隣に腰を下ろす。それでもレギュラスはこちらを向いてくれない。

「レギュラスー」
「………」
「無視するなよ、寂しいだろ」
「…うそつき」
「嘘じゃねぇって」
「………」

再び黙り込むレギュラスの痩身をそっと抱き締めると強ばるように尖っていた肩から少しだけ力が抜けて緩んだ。触り心地の良いさらさらとした髪を梳きながら名前を呼ぶと、小さな声で返事が返ってきた。その声が甘やかな色を孕んでいて俺は嬉しくなる。

「……なに」
「お前、別に背ぇ低い方じゃないだろ」
「……きみに比べれば、小さい」
「そりゃあそうだろうけど――別に俺と比べる必要は無い」
「………そう、だけど…」
「だけど?」
「……どうしても、きみと比べてしまう」

その呟きが何処か気恥ずかしそうで、言葉に含まれた意味に気付かされて自然とにやけてしまう頬を抑えられなくて笑みが零れる。どうしよう、嬉しい。嬉しくてたまらない。

「あー……レギュラス、あのさ、俺」

この嬉しさをどう伝えようか、胸中を占める感情に頭を悩ませながら呼び掛けた言葉はしかし、レギュラスによって遮られた。

「っ…ん、」

彼自身の、その唇によって。

「――――レギュ、ラス」

触れた彼の唇は熱を持って熱く、マシュマロなど比にならないほどに柔らかかった。レギュラスの可憐でしめやかなに色づいた薄紅色の唇が触れたという事実と生々しく残る感触が相俟ってひどく俺を高揚させていた。

「……それ以上は、言わないで」

僅かに俯いたレギュラスの髪が重力に伴って流れ、ほんのり薄朱に染まったうなじと耳朶が露になった。その可愛らしい姿を前にして俺が我慢なぞ出来るだろうか。いや、ない。反語。

「っ、レギュラス…」

熱い吐息を含ませた声で彼の名を呼び、伸ばした腕で強く細い身体を掻き抱く。

「わ、バーティ「可愛い」
「……っ、ばか…」
「……馬鹿でも、いい」

どんなに憤慨されたとしても、愛する彼のうつくしさに変わりはないのだ。それならば俺は馬鹿でも阿呆でも構わない。


(嗚呼、お前はうつくしい)



end.




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