黒猫と輪舞曲



「猫を飼おうと思うんだ」とにこやかに口を開いたのは全身を黒に包んだ男。それに対して「そうですか」と不自然なまでに冷めた口調で答えたのは細身のスーツを着こなした女。室内は間接照明によって仄暗く照らされており、何処となく冷たい雰囲気が漂っていた。

「俺は黒が好きだからさ、だから黒猫を飼おうと思うんだけれど……どう思う?鯨木さん」
「……どうと言われましても、私は貴方の考えに対して特に意見を持っていませんから、お答えすることは出来ません」
「……相変わらずクールだねぇ」
「そうでしょうか」
「クールクール!本当に貴女はクールを固めて作ったような人だよ!」
「……そうですか」
「――――で、鯨木さん、本当にそれだけ?」

黒衣の男――――折原臨也は得意の笑顔を貼り付けたままで鯨木と呼んだ女に柔らかな口調で問い掛けた。問われた女は書類を纏めていた手を止め、ゆっくりと臨也を振り返って2、3度目を瞬かせた。

照明の灯りも相俟って独特の色を浮かべた虹彩が無感情な眼差しで臨也の顔をじっと見詰める。相手の真意を測る為なのか、鯨木はそのまま視線を逸らさずに観察するようなに見ていたが、臨也が笑顔に何の変化も表さないことが分かるとつい、と書類に視線を落として首を傾げた。

「……何と答えれば?」

無感情な瞳は僅かにだが、揺らいだようだった。今まで平淡だった落ち着いた声に少しの抑揚が窺える。鯨木はほんの僅かに、動揺したらしい。その様子が面白い臨也はにこやかに笑いながらあくまで丁寧な口調で話し掛ける。

「いやいや!俺は決して貴女に何か決まった返答を期待しているわけじゃないんですよ?ただ、鯨木さんの―――貴女の意見が聞きたいだけですから」
「…………、」

鯨木は書類を見詰めたままで黙り込んでいる。臨也に返す言葉を考えあぐねているようだった。暫くして、鯨木は頬に掛かった髪を軽く払いながら臨也を見上げる。それから小さく口を開き、呟きのように言葉を紡いだ。

「私は――――飼う必要は無いと思います」

臨也が、俄に目を見開いた。鯨木の口から発せられたとは思われない、呟きにしては僅かなりとも意志が込められた言葉に驚いたようだった。

「……理由は?」
「――――だって、折原臨也さん、」

臨也が問うと、鯨木は目を逸らさないままで柔らかく目を細めた。

「黒猫は、貴方じゃないですか」

それはまるで何かを慈しむような、そんな表情だった。


(さぁ、踊りましょう?)



end.




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