Sweeeeeeeeeet!!



「……デンジさん?」

ふっと弱まった腕の力にコウキが遠慮がちに声をかけた。こちらの顔色を窺うようなその様子に、デンジは思わず笑みを零した。そんな顔をしなくても大丈夫なのに、コウキはいつだって自分より一回りも大きなデンジを気遣う。その優しさを嬉しいと思ってしまう時点で、デンジはコウキに甘えすぎている。自覚はあってもやめられない、優しい子どもは存在がデンジにとっての麻薬だ。今だって溺れてしまいそうなほどに、デンジはコウキを愛しく思ってしまっているのだから。

「――――なんでもないよ、コウキ」
「疲れてるならいいんですよ?……ぼくに、甘えてください」


上目遣いで控えめにそんなことを言われてしまっては頬が熱くなるのを止められない。スカイグレイの瞳は真っ直ぐにデンジを見つめていた。耐え切れずにデンジが顔を覆って俯くと、コウキは慌てて覗き込んでくる。

「で、デンジさん?」
「…………すごい殺し文句だな」
「えっ」

掌で口元まで覆ったデンジがくぐもった声でそう言うと、コウキは目をおおきく見開いて首を傾げた。

「よく、意味が……。ぼく、なにか悪いことを言いました?」
「……悪いこと、じゃないな」
「え、じゃあなにを……?」

あざといぐらいの可愛さでじっと考えを巡らす様子もたいそう愛くるしい。まるで幼いコリンクのようだ。

「――――コウキは素直でからかい甲斐があるな」

ようやく顔を上げたデンジがそう言うと、コウキは馬鹿にされたと思ったらしい。まなじりをきゅっと吊り上げて、小動物みたく頬を膨らませた。それからそっぽを向くと、それきり黙りこんでしまった。

「コウキ、怒るなよ。からかったのは悪かった」
「……いやです。誠意が感じられません」
「そんなに怒るなって」
「べつに、怒ってない、ですっ」

ふてくされた声さえも可愛らしい。ぷっくりと膨れた頬を突っついてみると、きっと睨みつけられる。それでも視線の強さはバトルの時とは比べものにならないぐらい弱くて、本気で怒っているわけではないのだと分かった。室内でも相変わらず被ったままのハンチング帽を取り去ると、反射的にこちらに手が伸びてくる。それをしっかり捕まえて、デンジはにっこりと微笑んで見せた。あっ、と口を開いたままでコウキは硬直する。その隙に腰を抱き寄せてやれば、ちいさな子どもはもう動けない。じたばたともがいても、デンジはコウキを離してやらなかった。

「……ほら、怒ってるじゃないか」
「怒って、ない、ですっ!」
「うそつき」

はにかみながらデンジが言うと、コウキはぐっと言葉を飲み込んで恨めしそうに睨んでくる。ずるい、とか人の揚げ足ばっかり取って、と言いたげな視線だったがデンジは何事もなくそれを無視してやる。性懲りもなく柔らかな頬を触りながら、デンジはどうやったらこの子どもが機嫌を直してくれるだろうと思案してみた。本当のことを言ってやればコウキが真っ赤になってまた黙り込んでしまうのは目に見えていたし、だからといって何も言わなければ当分はこのまま拗ねられたままだろう。この前言っていた特訓に付き合ってやるのはどうだろう。コウキが欲しがっていた色のかけらを探してやるのもいいかもしれない。最近生まれたばかりのイーブイに必要かもしれない進化の石を買ってやるのもいいかもしれない。

「……デンジさん、物で釣ろうとしてません?」
「どうして分かる」
「当たり前でしょう!デンジさんの考えてることなんてぼくにはすぐ分かりますっ」
「……なんで?」
「え、だってデンジさん、分かりやすいじゃないですか」
「俺、何考えてるか分かりにくいって言われるほうなんだけど」
「えっ」
「なんでコウキにはバレちまうんだろうなぁー。不思議だなぁー」

ぱちくりと目を瞬かせるコウキをじいっと見下ろせば、じわじわと耳朶が赤くなっていくのが分かった。これぐらいはっきりと言わないと、この鈍い子どもには伝わってくれないらしい。だんだんとコウキの目線が下がっていくのに気付いて顎をそっと掬い上げると、スカイグレイの瞳がかちりと合わさった。おおきな瞳の中に映るのは金の色だけだ。そのことにいたく満足したデンジがゆるく笑うと、たちまちコウキは真っ赤になる。コウキが何かを口にする前にデンジは顔を近づけ、そっと口づけを落とした。


end.



title by JUKE BOX.




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