a simple problem



腕にすっぽりと収まるちいさな子どもの身体を抱き締め、デンジは短く息を吐いた。腕の中のコウキはデンジの髪が首筋に当たってくすぐったいらしく、肩を震わせて声を上げた。もぞもぞとささやかな抵抗を試みるが、デンジはますます腕の力を強くしていく。苦しいですよ、と憤慨するように言ってもデンジはまったく聞く耳を持たない。コウキはとうとう諦めて、わざとらしく溜息を吐いてみせた。唯一自由に動かせる右手を伸ばすと、肩に頭を埋めてきたデンジの頭に触れた。ツンツンとこちらを拒絶するような髪の毛を、しかしコウキはセットが崩れることも気にせずに撫でた。デンジが甘えだしたら何を言ってもやめてくれないことは分かっていたし、それに甘えられることも嫌いじゃない。普段はぶっきらぼうでクールな大人の、子供のような一面を見ることができるこの時間がコウキは好きだった。

デンジは親友のオーバといる時やジムトレーナーのチマリと遊んでいる時は素に近い表情を見せることが多いが、コウキの前で素を見せることは少なかった。まだお付き合いを初めて一ヶ月にも満たないし、コウキだってまだ素を見せたことは無い。コウキにとってはデンジが最初の恋人で、はじめて好きになった人だ。本当の自分を見せるということに対して抵抗があるし、デンジはモテるからそれなりに今までだって経験はあるだろう。過去について詮索しようとは思わないが、コウキの知らないことをたくさんしているかもしれない。そう思うとなかなか歩み寄ることは難しくて、微妙な距離感が続いている。それでもあまり積極的な性格ではないコウキは、こうやって気まぐれにデンジが自分に甘えてくれることが嬉しかった。少しでもデンジさんの傍にいたい。もう少しだけ近くにいきたい。ただそんな気持ちでいっぱいだった。




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そんなコウキに対してデンジはというと、ちいさな子どもを抱き締めながら悶々とした考えに頭の中を支配されていた。デンジにとってコウキは腐っていた自分にポケモン勝負の楽しさを思い出させたかけがえのない存在だ。自分を暗闇から救い出したと言っても過言ではない、光り輝くような少年だった。そしてその光を手に入れたいとデンジは思ってしまった。シルベのとうだいで初めて会ったときに稲妻が奔ったわけではない。痺れるように恋に落ちたわけではない。ただコウキという少年は眩しく輝くだけではなく、傍にいてくれるだけでデンジを優しく包み込んだ。それはデンジがこれまでに出会ったどの光とも違う輝きであったし、同時にデンジをひどく痺れさせた。初めての感覚は、デンジを混乱させるには十分だった。今まで多くの女と出会いを繰り返してきた自分がちいさな子どもに恋をしたことに驚き、戸惑った。

だからこそコウキが想いを告げてくれた時にはすぐに返事を返すことができなかった。年齢の差や性別や立場よりも、自分がコウキと共にいてもいいのかという葛藤が大きかった。コウキは強い少年だ。そしてこれからも強くなっていくだろう。光は強さを増し、他の何者をも寄せ付けない光へと変化を遂げるだろう。その時に自分が傍にいることでその光を曇らせてはしまわないだろうか。そうやって蟠りを繰り返していながらも、デンジはコウキを手放すことができなかった。


それが答えだった。


end.




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