逃げ出した、後



珍しく、九十九屋から仕事の依頼が入った。仕事内容は特に難しいものではなく、とある研究機関の内部情報を探って欲しい、というものだった。九十九屋の情報収集能力を以ってすれば、臨也よりも容易く、確実に入手出来るだろうその情報を、どうして九十九屋は自分に依頼したのか。臨也はかなりそれを怪しんだが、仕事は仕事だ。九十九屋の考えなど詮索したところで無駄だと考え、仕方無しに情報を集めはじめた。

チャットルーム

折原臨也、復活!

『九十九屋、今からそっちに送る』
『いらっしゃい。もう手に入れたのか、早かったな折原』
『お褒めに預かり光栄だよ』

いつもの九十九屋のチャットルームで含みのある奴の台詞に軽口で返しながら臨也は頼まれていた情報を転送した。画面表示が消えたことを確認すれば、九十九屋から確かに受け取ったと文章が送られてきた。

『成程な。すると奴らはもう使い物になりそうにないな』
『まぁそういうことだ。これで満足か?』
『満足さ。これだけ分かれば十分だからね。最近は他の仕事で手が回らなくてな……あまり手が回らなくて困っていたんだ。助かったよ、折原』
『そうか』
『報酬だが、粟楠会の内部情報で良かったか?』
『あぁ、頼む。四木さんが厄介でね……中々奥まで探りが入れられなくて掴めず仕舞いだったんだ』
『お安い御用だ。ところで、折原』
『なんだ』

不意に九十九屋のレスが止み、臨也はキーボードから手を離して首を捻る。

『どうした?』
『あぁ、いや―――何でもないさ』
『煮え切らないな』
『すまない、気にしないでくれ』

全く以って九十九屋らしくない言葉に更に不信感が募る。

『九十九屋、何を隠している』
『隠すだなんて……いったい何を言い出すんだ?折原』
『お前らしくもない。妙に歯切れが悪いじゃないか』
『気のせいだよ、折原』

はぐらかす九十九屋の言葉が何処か余所余所しくて胸が急に苦しくなった。まるで見えない何かに強く、押さえつけられているかのように。

『……そうか』

痺れを帯びる指でそれだけを打ち込んで、マウスポインタは自然に退室ボタンに向かっていた。これ以上九十九屋と同じ空間に―――ネット上であろうとも―――居たくなかったのだ。本能がそう告げていた。これ以上此処に居てはいけないと。なのに、あと1歩でボタンを押すというところで九十九屋が文章を打ち込んだ。それを読み上げようと目が追ってしまう前に俺はきつく目を閉じて人差し指に力を込めた。

折原臨也、死亡確認!


(逸らしたことで何を得た?)



end.




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