my sweet honey?



「ハニー達♪俺が居ない間、元気にしてたー?」

ストローハットに片手を掛け、路地裏から姿を現した男は痛々しくも血の滲む包帯を巻いた顔でにへらと笑みを浮かべて、そう明るい声を出した。

「あ、ろっちー」
「え?あ、ほんとだ」
「ろっちー久しぶりー」

ろっちーと呼ばれた男に答えるのは様々なタイプの少女達。にっこりとした明るい笑顔を浮かべるギャルのような少女も居れば、クールそうな眼差しが印象的な少女、ほんわかとした雰囲気の可愛らしい少女も居た。そんな少女達の三者三様な返答を聞いて、ろっちー―――六条千景は苦々しげに表情を引き攣らせて肩を落とした。

「………あれ、なんか皆軽くね?久々の感動の再会だっつーのに軽くね?」
「そうかな?」
「普通じゃない?」
「ろっちーの気のせいだよー」
「あっそっかー気のせいかー」
「うん」
「きっとそうだよー」
「ねー」
「……ハニー達が…俺に、冷たい……」
「…………六条千景、か?」
「あん?」

真っ白に燃え尽きた、という様子でがっくりと地面に膝を着き、項垂れる千景。その姿に訝しむように声を掛けたのは、偶々通りすがった門田だった。千景がのろのろと顔を上げると、門田はいつも愛用している黒のニット帽を被っておらず、きっちりと固めて撫で付けられたオールバックが門田の男らしさを際立たせていた。

「門田か……」
「ねぇねぇろっちー、その人誰?」
「見たこと無いね、友達?」
「池袋の人?」

呟くように千景が呟き、門田が何かを言おうと口を開きかける。だがその前に取り巻きの少女達が門田の近くに集まり、群がるようにして質問攻めにしていた。好奇心いっぱいという様子で門田を見上げる少女達の反応は珍しく、千景の周囲に門田のようなタイプの、所謂堅そうな男が居なかった事を容易く浮かばせた。

「え、あ、いや俺は」

門田が戸惑った様子で後退り、千景に目で助けを求める。それを受け取り、千景はやれやれと言いたげな表情で肩を竦めて立ち上がって少女達の腕を引いて口を開く。

「ほーら、門田が困ってんだろ」
「でもー……」
「気になるじゃん」
「結局、友達なの?」
「い、や……友達、っていうか何て言うか……」
「じゃあ喧嘩相手?」
「いや、それも違うけど……」
「何それ」
「変なろっちー」

少女達は不満そうに口を揃えて言い、仕方ないといった様子で門田から離れて雑談を交えながら近くのゲームセンターへと入っていった。それを何とも言えない表情で見送った門田と千景は、顔を見合わせて苦笑した。

「久々だな、門田」
「あぁ……相変わらずの女好きだな、お前は」
「褒め言葉か?それ」
「さぁな」
「そう言うお前は女慣れしてない様子だったじゃねぇか。いい歳なのに彼女の1人や2人や3人も居ねぇのか?」
「生憎と居ねぇな。お前とは違って、この歳になっても出逢いは少なくてな」
「寂しいもんだな」
「お前に言われるまでも無いさ…それはそうと、またバイクで此処まで来たのか?」
「当たり前だろ?ハニー達に会う為だからな!」

千景はそう得意げに胸を張って言い切ったが、当のハニー達はゲームセンターでプリクラ機の列に並びながらきゃいきゃいと騒いでいた。

「……」
「………なぁ、門田」
「何だ」
「やっぱり、皆冷たくねぇか…?」
「…日頃の行いだろ」
「なっ…門田、お前なぁ…いつ俺がハニー達に何をしたと」
「いっつもフラフラしてるじゃねーか」
「失礼な!俺は「ろっちー」

門田の言葉に何か反論をしかけた千景に、いつの間にゲームセンターから出てきたのか、一人の少女が声を掛けた。

「ノン。どうした?」

相手が門田からノンと呼ばれた少女に変わった瞬間にがらりと口調を変えた千景に思わず門田は溜息を零す。分かり易すぎる女好きはいい加減にした方がいいだろうと思いながらも、その心中に僅かな苛立ちが生まれた。だが、その苛立ちの正体を門田が掴む前に少女が口を開いた。

「もう私達行くね。ろっちーはまだその人とお話があるでしょ?」
「え、ちょ…ノン待っ「もうすぐお店が開いちゃう時間なの。それにろっちーだっていっつも女の子かTo羅丸の人としかお話してないでしょ?たまには他の人とも話した方がいいよ」
「ノン」
「お友達と仲良くね」

千景に引き止める暇さえ与えずに柔らかな笑顔を残し、ノンは短いスカートの裾を翻してたたっと他の少女達の元へと駆けていった。その姿を見ながら呆然とする千景と、何処か感心する様子の門田。

「ノ、ン………」
「ふーん、お前も敵わない相手は居るんだな」
「門田……なに感心してんだよ……」
「あぁ、悪ぃ悪ぃ」
「笑ってんじゃねぇよ…ったく、大体お前のせいで」
「ぐちぐち言うなっつの。悪かったよ」
「……」
「あー……代わりっつーかさ、俺とデートするか?」
「は?」
「………嫌か」
「え、や、別にそうじゃねぇけど、なんか」
「?」
「いや、キャラじゃねぇ事言うから」
「そうか…?」
「―――まぁいいや、じゃあ行くか」
「いいのか?」
「お前から誘ったんだろ?ちゃんとエスコートしろよ?」
「…お前が彼女役でいいのか?」
「じゃあ門田が彼女役すんのかよ?」
「………」
「……ひっでぇ顔してんぞ」

あからさまに皺が寄った眉間に軽いデコピンを食らわせ、門田が痛ぇよと呻くと千景は笑って、行くぞと腕を引いて歩き出す。その足取りは軽く、楽しげだった。

「折角久々に来たっつーのに満喫しねぇで帰れねーんだよ」
「……はいはい、彼女さん」
「だ、誰が「彼女さん、だろ?今日は」
「ッ……あんまり調子乗んなよ、門田……!」
「ははっ」


end.



(特別待遇でもてなしてやるよ)




ホーム / 目次 / ページトップ



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -