Diktat.

※次男帰還後


「おかえり、コンラッド」

おれはコンラッドの胸に顔を埋め、はやる気持ちを抑えて囁いた。零れ出した言葉は、待ち侘びたひとの帰還に熱い吐息を孕んでいる。心臓はどきどきと高鳴って、耳までも胸の音になったみたいだ。いっそうるさいぐらいの鼓動を抑えられない。それぐらいおれにとって嬉しいことだった。目頭が熱い。気を抜けば、きっと涙が溢れてきてしまうだろう。だからおれは胸いっぱいにコンラッドの匂いを吸い込んで、顔を上げてにっこりと笑った。

「ずっと待ってた」
「――――ただいま、陛下」
「……陛下じゃないだろ、名付け親」
「すみません、つい癖で」

ユーリ。優しい声色で囁かれた名前はじわりとおれの胸に染み込んできた。柔和に微笑む表情も、おれを抱く腕の優しさも、すべてが懐かしくてたまらなかった。長いあいだおれが求めていたもの、どうしても手に入れることができなかったもの。それが今は手を伸ばせば届く距離にあった。その事実に打ち震える。嬉しくて嬉しくてたまらなかった。コンラッドはおれの傍にいる。命令ではなく、彼の意志で彼はここにいる。

「感動の再会、なんだからさぁ」
「はい」
「ちゃんと……名前で呼べって、の……」
「……はい、ユーリ」

コンラッドの笑みを含んだ声が空気を震わせる。以前となにも変わっていない表情で彼は笑う。そっと手を伸ばせば、おれの意図を察した彼は屈んでくれた。指先でコンラッドの頬に触れる。滑らかな皮膚の感触を指でなぞるように確かめた。ちょっとだけ伸びたダークブラウンの髪は砂ですこしざらついている。薄茶に銀の虹彩を散らした瞳は、優しい色でおれをじっと見つめている。好き勝手に触られていてもまったく嫌そうな素振りを見せない。嫌じゃない?と訊けば、心底不思議そうな表情でどうして、と返された。おれが言葉に詰まると、コンラッドは黙っておれの手を取った。わざとらしいぐらいに恭しい仕草だ。

「あなたが俺に触れることに俺の許可など必要ありません」
「どうして?」
「俺はあなたのものだからですよ。自分のものに触れるのに、理由は要らないでしょう」
「コンラッドは所有物じゃないよ」
「……いいえ、ユーリ。俺はあなたのものです」

さらりと告げられた言葉には、きっと嘘や偽りは存在しないだろう。だっておれには分かる。コンラッドが何かを隠していれば、嘘を吐いていれば、一番に気付くのはおれだ。彼が自分をおれのものだと言った。それならばおれも言質を取らなければならない。取られた手を握り返して、おれはコンラッドを見つめ返した。美しい瞳がゆっくりと眇められる。まるで獣のようなその表情にぞくりと震えた。

「……じゃあコンラッド、これは命令だ」
「なんなりと」
「あんたはこれから一生、おれの傍から離れるな」
「――――えぇ、」
「どんな理由があろうとも、どんなことがあっても、絶対に」


おれの傍にいろ。


end.



title by JUKE BOX.




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