It's going to rain.



ヤスタカというエリートトレーナーでありジムトレーナーの俺は、リーダーにとってはただの部下でそれ以上でも以下でもない。小手調べなんて肩書きだけれど、それは本当にそのままの意味で。有り難くも彼を迎えに行くという任務はあるが、所詮はその程度。例外的な立場であるかと訊かれれば答えはNOだ。勿論、彼にとっての"特別"になりたいなどとおこがましいことは思ってすらいない。そんなことはひどく畏れ多いことだし、今こうやって彼の隣に並び立てるというだけでも身に余る光栄だ。世辞など抜きで、昔の俺からすればきっと信じられないことだ。

それでもグレンの潮風を受けながら、遠くの空をじっと見上げる彼はひどく頼りなく映って仕方がない。そんなことはきっとささやかな違いで、きっと他の人間には分からないことなんだろう。しかし、ずっと――――長いあいだ彼のことを見てきた俺には、そんな差異はすぐに見て取れる。何気ない日常のふとした瞬間、彼は何もない遠くを見詰めては目を伏せるのだ。明るいブラウンの瞳が翳る、その一瞬に彼が何を想っているかなんて俺には分からない。誰を想っているかなんて分からない。それでもねリーダー、俺はあんたのそんな顔を見たくない。その瞳が翳る瞬間を見たくないんだ。自分勝手なエゴでもいい、身勝手な押し付けだとは分かっている。貴方が誰に何を想っていてもいい、だからあんたにそんな哀しい顔をしてほしくないんだ。

不意に見上げた先の空はどんよりと曇っていて、重たく垂れ込んだ雲は不吉なまでに暗い。

「リーダー、そろそろ帰らないと」
「もうちょっと」
「傘、無いでしょう?」
「……わーったよ、仕方ねぇな」

軽口を叩きながらも空から目を離さないまま、今にも泣き出しそうな空と同じ色で彼はわらった。


end.




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