at home



長い長い旅を終え、全てのジムバッジを揃えた僕はセキエイ高原へと辿り着き、チャンピオンリーグで四天王を倒し、チャンピオンを倒して、実質的なポケモンマスターとなった。リーグ制覇はとても厳しく、体力的にも精神的にも激しい消耗を強いられるものだった。長かった旅と戦いを終え、疲れ果てた僕とピカチュウ、ポケモン達は身体を休めるために久しぶりに故郷の町へと帰ってきた。マサラタウン、僕の生まれ育った町だ。長い間帰っていなかった家は、しかし昔と僅かにも変わらない顔をしてそこに建っていた。旅の間、全く連絡を取らずにいた母親に会うことに少しだけ罪悪感はあったし、申し訳なかったなという気持ちになった。けれど意を決してドアノブを捻り、開けた瞬間に苦しいぐらいぎゅうっと抱き締められた時には驚きと嬉しさに思わず笑ってしまった。抱き締める母の力の強さに苦笑しながら苦しいよ、と零すと「ただいまぐらい言いなさい」と怒られてしまった。身体を離して優しく微笑んだ母が、少しだけ小さく見えたのは僕の背が伸びたからだろうか。

「ねぇ、」
「なぁに、レッド」
「なんで分かったの、僕が帰ってきたって」
「オーキド博士から連絡があったのよ」
「ふーん……」

博士ならやりそうだなぁとぼんやり考えながら母の料理を食べる。旅の最中はほぼ携帯食かポケモンセンターのレトルト食品だったので、人間の手料理はかなり久しぶりに食べた気がした。ただ黙々と食べていると、おいしい?と尋ねられて、僕は上手く気持ちを言い表せないまま黙って頷いた。そんな返事でも母はとても嬉しそうに笑っていた。それから母の好きなテレビ番組を見ながら、僕はせがまれるままに旅の話をした。最低限しか答えない僕の話じゃ、きっと旅の具体的なことはあまり伝わらなかっただろう。けれど母が饒舌とは言えない僕の話に楽しそうに相槌を打ってくれるのが嬉しくて、胸が暖かくなった。旅の間は一人の同じ人間と長い時間を共にすることはないし、ずっと一緒に居るのはポケモンぐらいだ。だからだろうか、その日の食事は今までで一番美味しく感じられた。


end.




ホーム / 目次 / ページトップ



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -