How about such me?



いつもと変わらない寒い11月の朝。起床時間になり、目を覚ました俺はまだ眠気から抜け出せずに眠い目を擦りながら起き上がった。朝方はひどく冷え込むせいで、最近はすっかり朝に弱くなっていた。起きなければと思うのだが頭はしっかり動いてくれず、目蓋は睡魔に引き摺られるように再び閉じようとしていた。緩やかな船を漕ぎながら再度眠りに落ちかけた時、名を呼ばれて意識を取り戻した。バーティと呼ぶ声は聞き慣れた親友のもので、一瞬だけ違和感を感じたような気もしたが回転の鈍い頭のままで俺は振り返った。しかし振り返った高さにレギュラスの顔は無い。何かが可笑しいと思いながら、そのまま視線を上に上げる。そうして親友の顔を見詰めた数秒後、俺の脳髄はようやく覚醒を迎えることになる。――――レギュラス・ブラックは、大人の姿になっていた。

「ッ……なっ…!」
「……バーティ……?」

俺の反応に対し、レギュラスは不思議そうに首を傾げる。まるで彼自身は自分の状況に気が付いていないようだったが、しかし彼は完全に成人男性へと変貌を遂げていた。闇のような漆黒の髪はそのままに、蒼灰色の瞳も変わらない。しかし幼さが際立っていた顔つきは精悍で美しい整った顔立ちになっていたし、シャツの襟から覗く首筋からも分かるように細かった身体は均整のとれた綺麗な身体になっている。そして身長も当然ながら俺よりも高く伸びていて、周囲よりも高めのトレブルだった声音は少し落ち着いたテナーへと変わっていた。先程までの俺と同じようにまだ寝惚けているのだろう、ぼんやりとした表情のままでレギュラスは俺を見下ろしている。身長が伸びているので目線の高さに違和感を感じないわけはないのだが、生憎俺はベッドの上のままだ。レギュラスから見ればはっきりとした違いは感じられないのかもしれない。それならばこちらから教えてやるしかないのだろう。混乱したままでまぁ冷静にここまで考え至った俺を誰か褒めてくれ、普通だったらここまで落ち着いて判断できない筈だ。なんてことを頭の隅で考えながら俺は咳払いをし、改めて大きくなった親友を見上げた。

「バーティ、どうしたの…?さっきから変な顔して」
「してない」
「……さっきから百面相してるじゃないか」
「いいや、気のせいだレギュラス。それよりも落ち着いて聞け」
「なに……?」

どちらかといえば可愛らしい部類に入る顔がすっかり大人びた美しいものになっているくせに、仕草や表情は今までと変わらないせいでちぐはぐだ。せっかく落ち着きかけていた頭が再び正気を失いそうになるのを必死で留めながら俺は言葉を探した。あーとかうーとか言いながら、これから俺が何を言っても取り乱すなとか俺を信じろとかまるで何かの宗教の勧誘みたいな台詞を並べたてる。俺がそんな言葉を言う度にレギュラスはよく分からないという表情のまま素直に頷いた。そんな様子も昨日までの彼と何一つ変わりはしないものだからやはり落ち着かない。

「分かったよ。今からきみが言うことは全て信じる。何があっても取り乱したりはしない」
「今の、言質を取ったからな」
「でもいったい何をそんなに……」
「――――それは、これを見れば解るさ」

そう言って、俺はサイドテーブルの引き出しから手鏡を取り出した。細かい装飾が多く施された純白のそれは母親から先週届いたばかりのもので、使い道に困っていたものだ。まさかこんな場面で役立つとは思ってもみなかったが。それをレギュラスの目の前に掲げ、そして裏返した。

「………」
「………」
「………………」
「………………」

異様なまでに長い沈黙。手鏡でレギュラスがどんな顔をしているかは分からない。それでも長過ぎる静寂は如実に彼の驚きを現していた。恐らく、あまりにもショックが大きすぎて声も出ないのだろう。身体は成長したとはいえ、彼の心はデリケートな少年のままだ。もし深く傷付いてしまえば大変なことになるかもしれない。

「レギュラス……?」

重い沈黙を破り、俺はゆっくりと手鏡を下ろして親友を見上げた。

「レ「どうやら、僕は大人になったみたいだね」
「――――……」
「?どうしたんだいバーティ、フクロウがゲーゲートローチを食らったような顔をして」
「レ、レギュラス……驚いて、いないのか……?」
「驚く…?あぁ、原因はきっと昨日兄さんから渡されたポッキーだろうね。何か仕込まれているだろうとは思ったけど、あんまりあの人がからかってくるから癪で食べてみせたんだよ。目の前で」
「お前、シリウスから渡された菓子を食べたのか……!?」
「うん。いつまでも馬鹿にされてるのは楽しくはないからね。兄さんたら自分で食えって言った癖に僕が口にしたのを見て大慌てしてたんだ。顔には出してなかったけどすぐに分かったよ。あれは愉快だったなぁ」
「そんな暢気なことを言ってる場合か!!薬の効果はどれくらい持続するんだ?解決策はあるのか?」
「大丈夫さ、バーティ。兄さんやポッター先輩達が作れる薬なんだ、効き目だって対して続かないだろう。まぁスネイプ先輩みたいな人が作ったものなら話は別だけど、保健室に行けばどうにかなるだろうし」

そんなに心配することじゃないよ、と俺を宥めるように微笑んだレギュラスに俺はただ呆然とするしかなかった。何というか、レギュラスはこんなに挑戦的な態度を取るような性格だっただろうか。この姿になっているせいでよく分からなくなっているが、なんだか親友がやけに油断ならない雰囲気を纏っているように思えた。シリウスがしつこく嫌がらせをしてくることは知っていたが、それがすっかり仇になっているようだ。兄の性格の悪さをそのまま受け継がずに受け流し、そのくせ処世術のように上手く身につけているのだから。

「そ、うか……」
「ごめんねバーティ、きみにも昨日の内に言っておけばよかった」
「いや、そんなことはもういいさ……少し動揺しただけだ」
「――――それならいいんだけど。ねぇ、バーティ」

何だ?と見上げようとした瞬間に強い力で手首を掴まれた。と思った瞬間に俺はベッドへと押し倒されていて、身動き一つ取れなくなっていた。


×


「……油断した?」

口角を吊り上げ、どこか愉悦を滲ませた口調で微笑んでみせたレギュラスの艶やかさは形容し難いものだった。彼は聞いたこともないような低い声でくすくすと笑い、俺の頬に触れた。首筋にかかる吐息は熱を孕んで熱く、予想も出来なかった状況といつもと真逆の状況に背筋がぞくりと震える。不気味なほどに綺麗な顔で唇だけで微笑むレギュラスを、俺は知らない。この人間は確かに昨日まで親友だったレギュラス・ブラックだ。それなのに、今こうして俺を捕らえているこの男も本当にレギュラス・ブラックなのか。その答えはどう足掻こうともYESであると頭では分かっているのに、身体はまるで知らない誰かが相手であるかのように竦んで動けなくなっていた。それもただの相手ではない、喩えるならそう、まるで捕食者のような――――。

「ふふっ。バーティ、びっくりしてるんだね」

いつもと違う景色だ、すごく新鮮な気分だよ。そんなことを無邪気に呟きながらもレギュラスは手の力を緩めようとはしない。力加減が分からないわけではなさそうなので、きっと分かってやっているのだろう。そのぐらい、今の状況が楽しいのか表情は珍しいほど生き生きとしている。これが本当に成長した、大人の男になったレギュラスの姿なのだとすれば今の俺には全てに於いて勝てそうもない。勝つ負ける以前に、勝とうとも思えないと本能的に感じるほどの何かがあった。薬の効果が切れるまで何事もなく時が過ぎればいいと思いつつ、この様子では何をされたとしても抵抗など出来はしないと頭の隅ではしっかり理解している自分が、ひどく恨めしく思えた。


(お気に召しましたか?)



end.




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