a greyish blue color eyes



乾いた風が吹き付け、重いローブを揺らす。ホグワーツの秋は早い。すぐにでも冬を連れてきそうな色をして、見上げた先の空は暗かった。隣を歩くレギュラスは先刻から全く口を開かず、僅かながらに血色の悪い唇を引き結んでただ歩を進めていた。今までの退屈な魔法史の授業も、その前の意味不明な占い学の時間でさえも必要最低限以外は何も話すことは無かった。だからといって愛想が悪いわけではなく、話しかけられれば普段通りの雰囲気であったし、八つ当たるようなことはない。機嫌が悪かろうとも何に対して当たることもなく、ただ自分の中に感情を押し込める辺りがこの友人の唯一の欠点なのだと思ってならなかった。だからといって今のレギュラスに無理に説教を垂れるようなことは俺の性に合ってはいなかったし、する理由もない。滑らかな漆黒の髪が風に揺蕩い、白い肌を叩くことも意に介さないで歩き続ける彼を横目で見ながら俺も黙って歩く。枯れ葉が二人分の足音に踏まれて音を立てた。


×


「今日はやけに寒かったね」

寮の談話室に戻り、ローブを脱ぎながらそう言ったレギュラスにいつもとの何の差違も窺えない。そうだな、と頷くと吐息混じりに本当に、の呟き。未だ誰も戻らない談話室は人気がないせいか妙に寒く、俺たちは急ぎ足で寝室へと戻った。夕飯まではまだ時間があるが特にすることもない。試験明けの週は僅かながらも生徒に対する労いなのか、課題を出されるということもない。もし出されたとしてもレギュラスは出されたその日に終わらせてしまうし、かく言う俺もさっさと片付けるのが常だ。サイドテーブルにチェス盤が置いてあるのを見つけたが、それが誰のものであるかは分からなかったし、やる気にはならなかった。レギュラスも同じなのかチェス盤に視線を落としたものの何も言わずにローブをクローゼットに戻していた。彼ほど丁寧なことをするわけではなく、適当な椅子に脱いだローブを引っ掛けて俺は自分のベッドに寝転がる。毎日毎日同じような日々が過ぎていく。退屈な日々には辟易しているが、嫌いなわけではない。その理由はレギュラスの存在があってこそなのだとは知っていた。

「バーティ、寝てしまうのかい」
「…………いや、」
「この前みたいにそう言って寝てしまうんだろう」
「そんなことはない」
「また夕飯の時間を逃しても知らないからね」
「じゃあまた屋敷しもべにでも頼むさ」
「それは駄目だよ」

俺がローブを掛けた椅子に座って、少しだけ可笑しそうに微笑んだレギュラスはまるで幼子のように見えた。気を抜いて笑うと幼く見えるというのは本人も承知らしく、寮の外ではあまり思い切り笑うことは少ない。ただ、俺と一緒のときは外行きの微笑ではなく花が開くように微笑むのが可愛らしい。男に対して可愛いという表現は相応しくないのだろう、先日うっかり口を滑らせた時に複雑そうな顔をされたことを思い出した。

「……バーティ?」
「いや、悪い、ちょっと思い出し笑い」
「なにそれ。変なバーティ」

首を傾げるその仕草も、俺を覗き込みながら横髪を耳に掛ける仕草もどことなく幼く映るのは何故だろう。手を伸ばしてレギュラスの頬に触れると驚いたように目を見開いた。脅かしてしまったかと手を引きかけると細い指にそっと捕らえられる。今度はこちらが驚く番で、見上げると柔らかに微笑む彼がいた。そのまま指を絡め、レギュラスがベッドに手をつくとぎしりと微かにスプリングが軋む音がする。陰になって虹彩の色は窺えず、ただレギュラスが仄かに笑っていることだけは分かった。熱を孕んだ息が首筋にかかる。近づいてきた彼に抵抗することもなく唇を受け入れれば、触れ合ったそこは熱く、久しぶりの感覚にじわりと脳髄が陶酔する感覚で満たされた。レギュラスが満足するまで何度も何度も触れるだけのキスを繰り返す。深くを求めることはなく、ただ触れ合っては離れていくこの行為が暗に彼の気持ちを表しているのかもしれないと、なんとなく頭の片隅で思った。繰り返す口づけは甘く、そして長い。どれほどの時間が過ぎたのかは分からないが、ようやくレギュラスが唇を離して上体を起こした頃にはお互いの唇はしっとりと濡れていた。僅かに開いたそこから、真っ白な歯を覗かせて息を吐く彼は形容し難いまでの色香を放っていたが俺は何も言わずに起き上がった。

「レギュラス、」

名前を囁いて身体を引き寄せる。鼻と鼻が触れ合いそうな距離で俺からもう一度口付けると蒼灰色の瞳は安堵したように細められ、そして閉じられた。


(なぐさめて、そばにいて、はなれないで)



end.




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