a blue tears



視界の端に捕らえた燐光に、何故だろう、ひどく胸が締め付けられたのは。そっと視線を戻してみるとそこには何の姿も無く、ただの鄙びた田舎道に橙の夕日が落ちているだけだった。どうしたんだよ相棒、立ち止まった俺を振り返って陽介が呼ぶ。まだ意識を一瞬の光に奪われていた俺は陽介に返事を返すこともなく、ただじっと光が過ったその虚空を見詰める。鈴が鳴るような、ささやかな響きだけが鼓膜を未だに焼き付けたまま。耳に残響する微かなその音は、なにかの羽ばたきにひどく似ているような気がした。


×


そして次にその煌めきを視界に映した日はとても寒い日だった。雪がしんしんと降り続ける八十稲羽は空気までも芯まで冷たく、擦り合わせた両手は凍えるほどに冷たかった。静かに吐き出した息は一瞬にして真っ白に変わり、空気中に溶けゆく。群青の夜空を見上げ、なんとなく目蓋を閉じてみる。冷たい雪が頬に触れたと思えば液体へと変化し、顎を伝って流れ落ちる。まるで、涙のようだと思った。そして悲哀の感情そのもののような。俺のものではない涙、けれど誰かが泣いているような、そんな気がした。ゆっくりと、そっと目を開けてみると、空中に小さな青が映る。しかしそれは俺が瞬きをした瞬間に消え失せてしまった。まるで溶けるように姿を眩ましたその青は、蝶に酷似していた。


×


何度も何度も、その輝きを目にする度に触れてみたくて手を伸ばす。しかし光に身を包んだその蝶は、そんな俺を嘲笑うようにひらりと逃げる。青の軌跡は虚空に僅かな跡と俺の心に虚しさだけを残していった。あの時に感じた涙と悲哀の感情は、どうしてもあの蝶から発せられているようにしか思えなかったのに、それでも俺の手があの蝶に触れることは出来ない。それはまるで、蝶が聖域のような触れることの出来ない存在であるように。


(あなたはわたしのたましいにふれてくれますか?)



end.




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