紅玉の矜恃

※来神時代


不意に頭上へ影が落ちてきて、見上げるとそこには新羅がいた。

「また静雄と喧嘩かい?」
「………五月蝿いな」
「あーあ、あからさまに不機嫌だねぇ」

その呆れた口調に苛立ち、舌打ちをする。

「…五月蝿いって言ってんだろ。黙れよ」
「酷いなぁ、手当てしてあげようと思ってわざわざ屋上にまで来てあげたのに」
「……………」

新羅は肩を竦め、苦笑を溢す。どうせ俺達の喧嘩が見たかっただけな癖によく言う。

「今度は黙りかい。まぁ、いいけど」
「っ、勝手に触らないで…!」
「こうしないと手当て出来ないだろ」

眉根を寄せ、掴んだ俺の手のまだ新しい傷を眺める新羅に苛立ちは加速していく。むかつくむかつくむかつくむかつく―――なんでこんな奴に手当てなんか…っ!

「しなくていい!」
「…今日はピリピリしすぎなんじゃない?」
「五月蝿い」
「静雄が原因にしても「五月蝿いなぁ!」
「―――臨也」
「…………ッ、」

優しい声と共に新羅の腕が俺の頬に触れ、そっと撫でるように動いた。

「臨也、どうしたんだよ」
「さ、わんなっ…触るなよ、俺に…!」
「………触らないと、治療出来ないだろ」
「だから、しなくて…っ」
「此処の傷も、さ」

新羅の指がとん、と俺の胸の中心に触れた瞬間、何かが瓦解した。気がした。

「っふ、う……っ、」
「―――君って奴は、本当に馬鹿だねぇ」

そう言ってやさしく笑う、彼の声がやたらと鼓膜に残響して、離れなかった。


(誰よりも、愛に餓えている癖にね)



end.




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