sleeping beast.



白く、滑らかな彼の首筋はまるで白磁だ。

情事後、死んだように眠る折原の後ろ姿を眺めながら、視線が奪われて仕方無いのがその首筋だった。まるで女のように白く、女よりも滑らかで美しい、そんな首筋。

「…………折原」

呼び掛けてみるが返答は無い。起きている癖に、質が悪い。


「折原、起きているんだろう」

もう一度呼び掛ければ、数拍の後に折原の細く骨ばった肩がぴくりと動いた。それから緩慢な動きで身体を身動がせて、肩越しに視線だけをこちらに寄越した。

「―――なんだよ、」
「あからさまに不機嫌だねぇ」
「五月蝿い。なに、用でもあるの」
「ん?あぁ、別に」
「……はぁ?」
「何となく……そう、呼んでみただけだよ、折原」

そう言ってにっこりと微笑むと、ベッドサイドのテーブルランプに照らし出された折原は柔らかな笑みを浮かべ―――ただ一言死ね、と吐き捨ててまた背を向けてしまった。

「……死ねは無いだろう死ねは」
「五月蝿い黙れ九十九屋。これ以上ふざけた事を言うならお前の口を裂いて、二度とそんなよまよいごとを吐けないようにしてやる」
「折原は何時からそんなにバイオレンスな趣味になったんだい?何の映画の影響?」
「…………」
「あぁ、それともドラマか……まぁお前はそんなものは見やしないか」
「…………」
「プライベートも情報収集で忙しいしな」
「…………」
「おい折原、無視するなよ」
「…………」
「―――まぁ、いいか」

無防備な背中に手を伸ばし、触れる。それだけで折原は身体をびくりと揺らし、あえかに声を漏らした。

「っ、あ…!」
「お前は本当に、敏感だな」
「うる、さ…触るな!」
「いいじゃないか、減る物じゃないし」
「そういう問題じゃ…っ、大体さっきまで……」
「ん?」
「っ、……散々触ってただろ!」
「まぁそれはそれ、これはこれ、ってね」
「なにそれ、理由になっ―――ひ、ぅ!」

尚も文句を紡ぎ掛けた折原は、俺が腰をするりと撫でた瞬間に高い声を上げて強制的に口を閉ざすこととなった。身体のラインを確かめるように腰を撫で、背中にキスを落としながら滑らかな肌を堪能するように愛撫する。折原は面白い程にびくびくと肩を震わせ、背中を丸めて声を押し殺す。気取らないように表情を窺うと、零れてしまいかける声を必死に抑えているのか、折原は桜色の唇を噛み締め、真っ白になるまで力を込めてシーツを握り締めていた。

「…………素直じゃないね」

揶揄を含ませて呟けば、汚い罵倒を返されて思わず苦笑を漏らす。

「まったく、折原は口が悪い。折角の美人が台無しじゃないか」
「男に言われても嬉しくない」
「嘘を吐け」
「嘘じゃなっ…!」
「綺麗な、首筋だな」
「っく、…」
「しかも一番弱いときた」
「ひ、ぁっ……ふ、ぅ…!」

肌を隠していた猫っ毛の黒髪を掻き上げ、露になった首筋を撫で、口付けを落とす。たったそれだけの軽い愛撫だというのに、折原は過剰なまでに身体を跳ねさせて甘い吐息を零す。

「…………折原」
「ふ、っ……」
「こっちを向けよ」
「や、だ……ぁ、っ…」
「……まるで子供だな」

殆ど力の入っていない身体で形ばかりの抵抗をする折原の身体を抱き締め、無理矢理反転させて唇を奪う。

「っ、ん……ぁ」

まるで甘味のように甘ったるい唇を貪る。絡めた舌先は確かな熱を孕み、心地の良い快楽を伝えてくる。ぎゅうと伏せられた折原の目蓋は時折震えていて、まるで夢でも見ているようだった。

「つ、くもや……」
「……どうした」
「っ、……な、まえ…」
「…………名前?」

ようやく開かれた折原の真っ赤な瞳は、飴玉のようにすっかり蕩けきっていた。その瞳に見詰められ、ぞわりとする。視線に焦がされるような感覚だった。

「―――臨也、」

名を呼んでやると、折原は安心したように目を細め、ゆっくりと目を閉じた。

「……また、お預けか」

穏やかな寝息を立て、俺の胸に身を預けたままで眠ってしまった折原に複雑な気持ちになりながらも、その警戒心の欠片も無い表情を目にしてしまえば自然と頬が緩んでいくのを抑えられなかった。

「おやすみ、臨也」

額にキスを1つ落とし、ランプを消す。そうして俺は暗闇に目を閉じたのだった。


end.




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