あたたかいきもち



「敵は四体!気をつけるクマ!」

私達を視認して襲ってきたシャドウは計四体。そのどれが今までの階層の中で強い部類に入るものだとクマさんのアナライズで分かり、武器を握る掌に力が入った。少しでも気を抜けば敵に攻撃の隙を与えることになる。探索はいつもより長引いていて精神的疲労は蓄積してはいたが、幸いにも体力はリーダーの指示で回復しているお陰で十分に残っていた。こんな所で油断してはいけないと床を踏む足に力を込めた。私はまだ、まだ戦える。守られる側じゃない、みんなを守る側になるんだから。

「うっし、行くぜ!ジライヤッ!!」

リーダーよりも素早く攻撃に回ったのは花村くんだった。手にしたスパナで宙に出現したアルカナカードを思い切り殴りつける。薄い氷のように砕け散ったその破片が真っ青な炎になって燃え上がり、広がった炎の中に玩具のような可愛らしいフォルムのペルソナ――――ジライヤが現れた。花村くんが命じると、ジライヤはくるりと身を翻し、いくつもの小さな竜巻を出現させる。それが次第に大きくなり、一気にシャドウを巻き込むように襲来する。強力な疾風魔法のマハガルだ。

「くそ、まだ足りねぇか!」

攻撃を受けてもなお、気味の悪い動きで蠢くシャドウに花村くんは悔しげな舌打ちを零す。それを制止して月森くんが大振りの刀を携えて前に進み出た。自然な動きですっと攻撃体勢を取ると、一体の大きなシャドウに斬り掛かる。しかし物理耐性のある相手だったのか、シャドウは僅かに身体を傾けただけだった。月森くんの表情が僅かに固くなり、ダークグレーの瞳が影を帯びた。その顔つきは、彼の普段は滅多に見せることの無い闘争心の表れだった。

「次、あたしが行くねっ!」

月森くんの表情を素早く察知した千枝が緊張感を孕んだ声で叫び、顔の前に現れたアルカナカードを鋭い蹴りで砕いた。青白く燃え上がったカードの破片からボディスーツに身を包んだ女のシルエットがゆらりと浮かび上がり、彼女の分身であるペルソナ、トモエが顕現する。トモエが薙刀を素早く振り翳すと周りの空気が一気に温度を下げ、ピキッと音を放ってシャドウの身体を澄んだ氷が包み込んだ。氷結属性の攻撃魔法、マハブフを食らってシャドウ達の体力は減らされたようだった。

「うー…こりゃしぶといわ……」

苦笑しながら千枝がそう漏らした。次は私の順番だ。すぅっと息を吸い込むと、身体を翻して武器である扇子を広げ、虚空に躍り出たカードを扇子で叩きつける。赤い花びらを風に揺蕩わせて、私のペルソナであるコノハナサクヤが姿を現した。精神を集中させて命令を下すと、コノハナサクヤは優雅な動きで腕を広げた。瞬間、ごうっと熱風が巻き起こり、火炎がシャドウの周囲に発生する。火炎攻撃のマハラギが一瞬でシャドウを呑み込む。氷結の後に火炎のコンボが効いたのか、それとも火炎が弱点だったのか、シャドウは灰となり、塵一つ残さずに消え失せた。

「やった……!」

シャドウが姿を消した空間を見つめて思わず呟くと、駆け寄ってきた千枝に喝采の声を掛けられた。その後ろから月森くんと花村くんも笑顔で歩いてくる。

「雪子すごーい!やったね!」
「そ、そんなことないよっ」
「天城、また魔力上がったんじゃないのか?」
「えっ…そう、かな?」
「ユキちゃん流石クマ!」
「もう、クマさんまで……」

みんなから褒められて嬉しくないはずがなく、自然と嬉しさに笑みが込み上げてくる。

「流石の火力だな、天城!お疲れさんっ」
「………ありがとう、」

にこっと屈託の無い笑顔を向けられ、花村くんの優しさにじんと胸が熱くなる。千枝や月森くん、クマさんの言葉も勿論嬉しかったけれど、私にとって一番喜びを感じるのは彼からの言葉なのだ。恥ずかしさもあるけれど、それと同じくらいにやっぱり素直に嬉しかった。こくりと頷くと、柔らかく微笑まれてまた胸がきゅうっとなった。あぁ、これでまた頑張れる。貴方の笑顔が私にとって、最高の活力だから。


(全部、いつも貴方が私にくれるの)



end.




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