アンチテーゼの序曲



「あんた最ッ低!!」

眉を顰め、整った顔を歪めた彼女がそう吐き出して僕を憎悪の眼差しで睨みつけるのは、ひどく愉快だった。八十稲葉市の霧深い曇り空の下ではなく、禍津稲葉市の赤と黒のコントラストの空の下で僕らは対峙していた。よっぽど暇らしいガキ達は僕を追いかけてきやがったのだ。あーあお前らいいご身分だなぁ。勉強もしないでヒーロー気取って犯人探しに本気になっちゃって。そんな安っぽい偽善とエゴで塗り固めたみっともない正義感(笑)を振りかざすのもいい加減にしろってんだよ。胸糞悪いことこの上ないし、見てるこっちが恥ずかしいんだけど。本っ当、やめてくんない?

「何が恥ずかしいのよ!あたし達は偽善なんかで犯人探しをやってない!」

ははっ、なーに熱くなっちゃってんの?嘘ばっかり言っちゃってさァ。知ってるよ、君たちは……瀬田くんを除いた全員は自分のシャドウに呑まれかけたんだろう?それをリーダーの瀬田くんに救われて自らのシャドウを自分自身だと認めたことでペルソナとして行使している。でも実際の所、君たちはシャドウを認めたといってもそんなものは表面上だけなんだろう?本当はいつだってそんな影の部分を本当の意味で認めることは出来ていない。だってそんな自分は許せないだろう?あぁ、無理しなくていいんだよ。本当はいつだって影の存在に脅えているんだろう?こんなのは自分じゃない、本当は自分はもっと綺麗で可愛いんだって。天城さんを守ってる自分は強くて頼りがいがある子なんだって、そう思いたいんだろう?ほらほら我慢しなくてもいいんだよ。僕は綺麗で可愛い君が大好きだ。

「そ……ん、な…の…」

なぁ、そこに居るシャドウは本当にキミなのかい?その穢くて汚らわしくて、他人を貶めて天城さんを見下して優越感に浸っている奴は、本当にキミなのかい?違うんじゃないのかい?そいつは汚らしい影だ。決してキミと相容れることのない忌まわしい怪物だ。化け物なんだよ。

「…………バケ、モノ……」

さぁて、こいつは一体誰だろう?この怪物は果たして、キミなのかい?

そこから先を紡ぐのはキミ自身の唇だ。


(惑わす甘言に溺れるキミがひどく愛しい)



end.




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