HEROの定義



誰にだって幼い頃からの夢ってものがあるはずだ。俺だってそれは例外でなく、ずっと心の奥底で焦がれてやまないものがあった。

そう、"正義のヒーロー"だ。

ヒーローと一言で言っても色々あるだろうが、俺の憧れはやはり幼少期に早起きして欠かさず見ていた戦隊物のイメージが強い。その中でもリーダー格のレッドは決してブレることの無い絶対的な強さと正義感を持っていたように思える。リーダーたるレッドを補佐する頭脳派のブルー、明るく戦隊の盛り上げ役のイエロー、冷静沈着で優しいグリーン、明るくキュートなピンクーーーレッド以外のメンバーにもそれぞれ良さがある。しかし強く優しく頼り甲斐のある、チームの指導者たるレッドへの憧れが薄れることはない。

自分自身がペルソナという能力を手に入れ、異形の存在を倒す"正義の味方"に似た存在になった今でもそれは変わらない。

「ペルソナッ!」

ぼんやりと発光しながらアルカナカードが宙に浮き上がった。手にした大振りのクナイでアルカナカードを粉砕し、俺はペルソナを召喚する。赤いマフラーと迷彩柄、黄色の手裏剣が特徴的な俺の分身―――ジライヤは光を纏いながらその姿を顕現させた。マハガルーラで強い竜巻を巻き起こし、一気に五体の弱点を突いてダウン状態へと持ち込む。あとは総攻撃を仕掛けるだけだ。そう思った瞬間、視界の端を黒い影が横切った。よく目を凝らして砂煙の消え去った方を見遣れば、攻撃から逃れた一体のシャドウが蠢いている。属にアブルリー系と呼ばれるそのシャドウは、大きく裂けた口から真っ黒な長い舌を突き出す。不気味な動きで俺を嘲笑うように浮遊した。

「ッ、くそ……舐めやがってッ…!」
「花村、私に任せて?」

1Moreで追い討ちをかけてやろうとガルーラを命じるべくカードを握る。トントンと足でリズムを取って俺に尋ね、里中は攻撃したくてたまらない様子だった。俺が制止の声を上げるよりも早く、落ち着いた声が後方から里中に応える。

「里中、頼む!」
「オッケーオッケー!」

里中は軽くストレッチをすると、浮遊し続けていたアブルリ―目がけて一気に走り寄る。渾身の強力なハイキックをお見舞いされたアブルリーは瞬時に吹っ飛ばされた。

「よし、一斉に攻撃するよ!月森くん!」
「あぁ」

里中の呼びかけに月森が大きく頷く。それに従い、俺たちはダウンしたシャドウの群れに突っ込んだ。怒涛の攻撃を受けたシャドウたちは塵となり、風に浚われて消え失せた。

「考えるな、感じるんだ……ってね!」

お決まりとなった台詞を呟き、里中は小さな身体を宙返りさせる。得意げに微笑む里中は実に嬉しそうで、1Moreを邪魔されたことへの文句を言う気は削がれてしまった。

「二人とも、いい攻撃だった」

月森に柔らかく微笑まれ、里中はうっすらと頬を染めてくすぐったそうに笑う。男勝りでガサツだった里中がよくこんな表情を見せるのは、決まって月森に褒められた時だ。

「よっし、次行こう次っ!」
「里中、あまり気張りすぎるなよ」
「大丈夫だって!」
「……そうか」

優しげに微笑むリーダー。戦隊物のレッドである正義のヒーロー。それが月森孝介という人間だ。己の身に無限の可能性であるワイルドという資質を持ち、12体のペルソナを操る力をその身に宿している。特別という言葉がぴったりな月森は、なるべくしてリーダーの座についた。天才的なその能力は俺がいくら望んだところで手に入れられるものではない。いつだって冷静沈着でありながらも、他人が出来ないことも簡単にやってのける。優しく人望もあり、周囲の人間に慕われるカリスマ的存在。俺は強くなりたい。いつかもう一人の人格が出現した時のように、情けない姿をもう二度と晒したくはない。だから、月森のように強くなりたい。

―――だけど、本当は、分かっている。月森は自分には手の届かない孤高の存在だと。しかし、そう理解していても心の隅では俺は月森を羨んでいる。リーダーたる、絵に描いたような正義のヒーローの座を羨望してやまないのだ。笑えるぐらいに不安定で、情けないほど弱い俺が月森のようになどなれるはずはない。そう、分かっている。

「……陽介?」
「―――……月森……」

なのにお前は

「大丈夫か?」
「……あぁ」

いつだってこうやって

「あんまり無理するな」
「…………分かってる」

俺の穢い部分も何もかも

「頼りにしてる。陽介」
「あぁ」

全てを優しく包んでくれるんだ。

だから前を向いて走り出せる。俺は強者への劣等感を抱いたルサンチマン。そんなどうしようもない肩書きを背負ったままで歩き出す。たとえ月森のようにはなれなくても、せめてと並び立つことのできる相応しい人間になれるように。

だからってヒーローになることを諦めたわけじゃない。今のところ、そのポジションはお前に譲ってやってるだけだ。―――なんて俺が言ったら、お前はきっといつものように苦笑するんだろうな。


(いつまでもお前を追い続ける)



end.




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