surprise birthday

※臨也誕


ぱんぱんぱんっ、と立て続けに小さな破裂音が響いた。と思えば俺の鳩尾に小さな身体が二つ、弾丸のように突撃してきて一瞬呼吸が止まった。

「ぐっ…あ…!」

辛うじて倒れそうになる身体を踏ん張って立たせたままでその弾丸達を見下ろす。一つの弾丸から生えた三つ編みがぴょこぴょこと跳ね、その顔を勢い良く上げた。

「誕生日おめでとうノミ兄!」
「誰がノミ兄だ」
「……兄(……兄さん)」
「九瑠璃」
「……蟲……兄……祝……(……ノミ兄さん……おめでとう)」
「なぜ言い直した」

仕事が終わり、やっと家に帰った俺を待ち構えていたのは実に軽快なクラッカーの破裂音と悪戯娘達だった。全く予期していなかったサプライズ(と言っていいのだろうか)に俺は、なんというか、正直驚いていた。

「ねぇイザ兄びびった?びびった?」
「誰がびびるかよ、馬鹿。こんな幼稚なのに」
「でもさっき抱き付いた瞬間に思いっきりびくってなったじゃん」
「それは生命の危機を感じたからだ」
「嘘……(嘘つき……)」
「嘘じゃな……九瑠璃そんな目をするな。それは実の兄に向ける目じゃないぞ」
「やだなぁイザ兄ったら実の妹に蔑みの目で見られて喜んでるよ」
「誰がだ!というかいい加減に離れろ。動きにくい上に鬱陶しい」

動こうとする俺に2人は尚もくっついたままで離れようとしない。てか重い。

「ちっ……仕方ないなぁ」
「舌打ちするな」
「まぁいいや!誕生日なんて絶好の機会だし、笑いながらダンプに突っ込んでよ」
「まだそれ言ってんのか」
「いつまでも言うよ!」
「肯(うん)」
「はぁ……」

呆れ帰りながらリビングに入り、脱いだコートをソファーに投げようとした瞬間、それは俺の目に飛び込んできた。

「―――……」

テーブルの上に並んだ色鮮やかで綺麗な料理の数々。どれもなかなかの値段がしそうな物ばかりで、不味そうな物はまず1つさえ見当たらなかった。

「えへへ、びっくりした?」
「美……味……(おいしいよ……)」
「あのね、アルバイトで貯めたお金で予約して買ってきたんだよ!」
「兄……速……食……嫌……(兄さん……ファーストフード嫌いだから……)」
「そうそう。ケンタッキーとかでいいかなって考えてたんだけど、それじゃ嫌がるのは目に見えてたからね。だから予約したの!」
「寿……司……有(お寿司もあるよ)」
「ほら、イザ兄の好きな大トロもあるよ!……イザ兄?どうしたの?」
「……兄?(……兄さん?)」

嬉しそうな笑顔で俺を見上げて話す2人の健気さに、思わず鼻の奥がつんと痛んだ。なんだ、こいつら、わざわざ自分達が汗水垂らして働いた金を遊びに使わずに俺の為に使ったのかよ。馬鹿じゃないのか。

「っ……」
「……兄……(……兄さん……)」
「本当、お前ら、馬鹿じゃねぇの」
「……馬鹿じゃないよ」
「肯(そうだよ)」
「馬鹿だろ……絶対、馬鹿だ……」
「じゃあそれは、イザ兄譲りだね!」
「遺……伝……(同じ血が流れてるから……)」
「……そうかもな」

柄にもなく2人が優しげな笑みを浮かべてそんなことを言うから、緩んだ涙腺が更に刺激されてしまった。あぁもう、これだから嫌なんだ、人間の情緒ってやつは。


end.




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