真夏日メランコリィ

京静!様 提出作品 ※来神時代


熱く火照る身体はじりじりと照りつける太陽光に晒されて更に熱を帯びる。顎を伝った雫がコンクリートの地面に落ち、吸い込まれてすぐに消えたのを見届けて、夏の暑さを改めて実感した。

「っちぃ…」

呟きながら水道の蛇口を捻ると、勢い良く温い液体が吹き出す。元々は冷たいはずのその液体を手に受けながら、冷えていくのを待ちきれずに蛇口の下に頭を突っ込む。何とも言えない感覚に襲われながら頭皮にかかる水がだんだんと冷えていくのを感じ、少しだけ荒れた心が宥っていく気がした。それでも、チラリと少しだけ先刻の喧嘩を思い出してしまっただけで苛立ちはしたが。

「―――っくそ、臨也のやろ…」

仇敵の忌々しい名前を低く吐き出しながらキリ、と少し軋むくらいに蛇口を捻って水を止めながら、静雄はすっかりびしょ濡れになった頭をぶんぶんと振る。染め直したばかりの金の髪から水滴が飛び、コンクリートに落ちてはたちまち吸い込まれて消えていく。その時だった。

「静雄、」

耳に心地の良い低音で呼ばれ、慌てて静雄は振り向く。

「ッ、門田…!」
「水浴びか?びしょ濡れじゃないか」
「ちが………まぁ、そうだけど、よ…」
「どっちだよ」

くくっと喉を鳴らして門田は笑うと、手にしていた真っ白なタオルを投げて寄越した。

「わ、っ!」
「ほら、それ使えよ」
「…さんきゅ」

優しげな門田の表情に、もごもごとお礼を言ってタオルを掴り、ふわふわと柔らかなタオルで滴る水滴を拭き取る。いつもなら乱雑にがしがしと拭いているのに、何故だか今日はそんなことは出来なかった。

「静雄」
「ん?」
「また臨也と喧嘩したのか」
「………」
「はは、黙らなくてもいいだろ?」
「…う、」
「どうせまた、臨也から吹っ掛けてきたんだろ?今日は確か…売店の数量限定クリームパンが原因だっけか?」
「だ、だってあいつが後から来たくせに俺のクリームパンを取りやがって…!」
「………」
「あ」

思わずあの時の怒りを思い出して一気に捲し立ててしまってから、。門田のきょとんとした表情に気付いて気まずい気分になって静雄は俯いた。こんなことで喧嘩をしたことが恥ずかしくて、情けなくて。でも数拍立っても門田は何も言わずに黙ったままで。もしかして怒ってしまったのだろうかと恐る恐る顔を上げると、

「っく、ははは…!」
「…え、あ、かど、た……?」

予想外にも門田は腹を抱えて可笑しそうに笑っていた。

「何で笑ってんだよ!」
「い、いや、だってお前、小学生かよ…!」
「な、ななな…っ!」
「原因を知ってたにしても、お前が言うと本当、何ていうか…可愛くてなぁ」
「かっ…!?」
「あぁ、可愛い可愛い」
「…っ、馬鹿にしてるだろ、ぜってぇ」
「してねーって。これが俺の本音」
「男に可愛いなんて「でもお前が可愛いんだから仕方無いだろ」

真顔で言うことかと悔しく思いながらも内心は嬉しくてたまらない。それを悟られてしまわないように静雄はタオルを掴むと、門田の顔面に投げ付けてやった。勿論、水ですっかり濡れてしまっていた。

「わっ…静雄、何す「うるさい!早く帰るぞ、京平!」
「ちょっと待てよ!―――あれ、今…」
「早くしろって!」
「…ったく、困った奴だな…」

足早に校舎に向かってすたすたと歩いていく静雄の少し丸まった背中を眺めながら、門田は嬉しさと困惑が入り混じったような表情を浮かべて小さく呟きを零す。

「おい、ちょっと待てよ静雄!」

じりじりと肌を焦がす太陽の日射しと蝉の鳴き声を聞きながら、門田は愛しい恋人を追って走り出した。


(それは、一粒の反撃)



end.




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