月森が俺を見ている。主に、腰の辺りを。
「……月森?」
「え…?あぁ、なに」
はっと我に返ったような反応をした月森は目をぱちくりと瞬たかせてこちらを見た。その様子はなんというか、男のくせに非常に可愛らしい。しかし、問題はそこではなく。
「なんか視線がこう、非常に」
「え?」
「……やらしいんですが」
「気のせいだよ」
……なんで即答なんですか、自称特別捜査隊リーダー。自然と頬が引き攣るのを抑えられないまま、気のせいじゃねぇよと俺は呟く。月森は何かを思案しながらじっと床を見つめはじめた。あ、こいつ何か良からぬことを企んでやがる。ここは早いところ逃げないとやばい。主に貞操的な意味で。完二の時よりも遥かにやばい。
「あ、あーっ!思い出した!今日はバイトが…」
「陽介、やらしい視線ってどんな視線?」
「そ、そりゃお前、やっ……やらしい視線、だろ!」
「それじゃ答えになってないよ」
「し……知らねぇよっ!」
「……ふぅん……」
なになになに!?なんですか!?その黒い笑顔と意味深長なふぅんってなに!?っていうか月森さん、いつの間にそんな至近距離まで近付いてたんですか!?うわっ、ちょっ……ドコ触って―――
「っん、ぅ」
月森の手がシャツの下に侵入し、肌を撫で上げる。手の感触に慌てて顔を上げれば、唇に軽い感触。ふわりと触れたそれは柔らかく、あたたかい。
「つ、きもり……」
砂色の虹彩が真っ直ぐに俺を射抜く。やば、このままじゃ流され、て
「ようすけ」
あ、駄目だ。
低い声にあまく囁かれたら、その時点で俺の負けは確定してしまっているのだ。せめてもの抵抗に俺は呟く。変態。苦笑気味に健全な証拠だと返されてしまい、その余裕っぷりが悔しくてたまらなかった。
(形勢逆転なんて、夢物語)
end.